ノカルジア症は,グラム陽性桿菌であるNocardia属の様々な好気性土壌腐生菌によって引き起こされる化膿性または肉芽腫性の急性または慢性感染症であり,しばしば播種性となる。肺炎が典型的であるが,皮膚および中枢神経系の感染症もよくみられる。診断は培養および特殊染色による。治療は通常,スルホンアミド系薬剤による。
Nocardia属細菌は,数珠状かつ分枝状の形態をとる弱抗酸性の偏性好気性グラム陽性桿菌である。Nocardia属細菌には多くの種が属しており,ヒト疾患の原因菌として認識される種が増えてきている。
N. asteroidesは最もよくみられるヒト病原菌であり,通常は肺および播種性感染症を引き起こす。
N. brasiliensisは,最も一般的には皮膚感染症を引き起こす(特に熱帯気候地域)。感染経路は吸入または皮膚への直接接種である。
その他のNocardia属細菌が限局性感染症や,ときに全身性感染症を引き起こすこともある。
ノカルジア症は世界中のあらゆる年齢層で発生しているが,発生率は高齢者(特に男性)および易感染性患者で高い。ヒトからヒトへの感染はまれである。
Nocardia属細菌は貯留水,枯れかけの植物,および土壌にみられる。感染は,菌を含む粉塵の吸入,または汚染された土壌や水が切創や擦過傷から皮膚に入る際の直接接種を介して起こる。
危険因子
ノカルジア症の危険因子としては以下のものがある:
リンパ網内系腫瘍
臓器移植
高用量コルチコステロイドまたは他の免疫抑制療法
肺の基礎疾患
しかしながら,ノカルジア症患者の約20~30%では基礎疾患が同定されていない。原発性皮膚ノカルジア症は通常,免疫能が正常な患者で,一部の種類の局所外傷の1~3週間後に発生する。
ノカルジア症はまた,進行したHIV感染患者における日和見感染症でもある。
ノカルジア症の症状と徴候
ノカルジア症は通常,放線菌症に類似する亜急性肺感染症として始まるが,Nocardia属細菌は局所性または血行性に播種する傾向が強い。膿瘍形成を伴う播種があらゆる臓器に生じうるが,最もよく侵されるのは脳,皮膚,腎臓,骨,および筋である。
Image courtesy of Dr. Libero Ajello via the Public Health Image Library of the Centers for Disease Control and Prevention.
肺感染時によくみられる症状(咳嗽,発熱,悪寒,胸痛,脱力感,食欲不振,体重減少)は非特異的であり,結核や化膿性肺炎症状に類似する。胸水も生じうる。30~50%の症例では転移性脳膿瘍が生じ,その場合は通常,重度の頭痛と巣症状がみられる。感染経過は急性,亜急性,慢性のいずれもありうる。
皮膚または皮下膿瘍がしばしばみられるが,それらはときに局所への一次的な接種として発生する。以下の臨床像を呈することがある:
硬い蜂窩織炎
皮膚およびリンパ系の症状
放線菌腫
皮膚リンパ管型は,原発性の膿皮症病変とスポロトリクム症に類似するリンパ小結節から構成される。
ノカルジア症による放線菌腫は小結節として始まり,化膿して筋膜表面に沿って広がり,慢性瘻孔から排膿する。
ノカルジア症の診断
顕微鏡検査または培養
ノカルジア症の診断は,身体診察,X線検査,またはその他の画像検査により同定された限局性病変から採取した組織検体中,またはその培養標本中でのNocardia属細菌の同定による。グラム陽性細菌の数珠状分枝状微細線維から成る集塊をしばしば認める(弱抗酸性のことがある)。
ノカルジア症の治療
トリメトプリム/スルファメトキサゾール(TMP/SMX)
TMP/SMX 15mg/kg/日(TMPとして),経口,6~12時間毎,または高用量のスルホンアミド系単剤(例,スルファジアジン1g,経口,4~6時間毎)を使用する。大半の患者で反応が緩徐であるため,最後の投与から2時間後時点でのスルホンアミド系薬剤の血中濃度が12~15mg/dLに維持される用量で長期にわたり継続しなければならない。その期間は感染の種類と感染者の危険因子に依存する。易感染性患者と播種性感染症の患者では,菌種の同定と感受性試験の結果が判明するまで,アミカシン,イミペネム,またはメロペネムとの併用でTMP/SMXを投与すべきである。
スルホンアミド系薬剤に対する過敏症または耐性がみられる場合には,アミカシン,テトラサイクリン系薬剤(特にミノサイクリン),イミペネム/シラスタチン,メロペネム,セフトリアキソン,セフォタキシム,広域スペクトルフルオロキノロン系薬剤(例,モキシフロキサシン),またはジアフェニルスルホンを使用できる。チゲサイクリンは効果的な代替薬である可能性がある。代替の抗菌薬を選択する際は,in vitro感受性試験のデータを参考にすべきである。
限局性の膿瘍は,典型的には切開排膿および外科的デブリドマンを必要とする。
ノカルジア症の予後
無治療の場合,肺および播種性ノカルジア症は通常死に至る。
適切な抗菌薬で治療した場合の致死率は,播種性感染症の易感染性患者で最も高く(50%を超える),病変が肺に限局している免疫能正常患者では約10%である。
皮膚感染症の患者における治癒率は通常95%を超える。
要点
免疫抑制と慢性肺疾患は素因となるが,最大30%の患者は基礎疾患をもたない。
肺炎が典型的であるが,皮膚および中枢神経系の感染症もよくみられ,血行性播種では,ほぼ全ての臓器が侵される可能性がある。
トリメトプリム/スルファメトキサゾール(または多数ある代替薬のいずれか)による治療を長期にわたり継続する。