髄膜炎菌感染症

執筆者:Larry M. Bush, MD, FACP, Charles E. Schmidt College of Medicine, Florida Atlantic University;
Maria T. Vazquez-Pertejo, MD, FACP, Wellington Regional Medical Center
レビュー/改訂 2022年 9月
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髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)は,髄膜炎と髄膜炎菌血症を引き起こすグラム陰性双球菌である。症状は通常重度で,頭痛,悪心,嘔吐,羞明,嗜眠,発疹,多臓器不全,ショック,播種性血管内凝固症候群などがみられる。診断は臨床的に行われ,培養により確定する。治療はペニシリンまたは第3世代セファロスポリン系薬剤による。

髄膜炎菌は,ナイセリア科に属するグラム陰性好気性双球菌である。13の血清群があり,そのうちの6群(A群,B群,C群,W135群,X群,およびY群)がヒト疾患の大半を引き起こしている。

世界的には,流行性髄膜炎菌感染症の発生率は10万人当たり0.5~5例であり,温帯地域では冬期および春期に症例数が増加する。局地的には,西はガンビアおよびセネガルから,東はエチオピア,エリトリア,およびケニア北部までのサハラ以南アフリカで最も頻繁にアウトブレイクが発生しており,この地域はサハラ以南(アフリカ)髄膜炎ベルトとして知られ,26カ国が含まれる。アフリカで発生する大流行(A群が起因菌であることが多い)では,発生率が10万人当たり100~800例となり,毎年最大で200,000人が感染する。アフリカの髄膜炎ベルトでA群髄膜炎菌に対するワクチンが広く使用されるようになってからは,A群は他の血清群の髄膜炎菌と肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae)に取って代わられている。

米国における年間発生率は10万人当たり0.12~1.1例である。過去20年間で,髄膜炎菌感染症の発生率は年々低下している,大半が散発例で,典型的には2歳未満の小児に発生する。髄膜炎菌感染症のアウトブレイクは米国ではまれであり,アウトブレイクと関連がある症例の割合は20例に約1例(5%)に過ぎない(米国疾病予防管理センター[Centers for Disease Control and Prevention:CDC]のMeningococcal Outbreaksを参照)。アウトブレイクは,半閉鎖的な共同体(例,新兵募集キャンプ,大学寮,学校,託児所)で発生する傾向があり,16~23歳の患者が巻き込まれる場合が多い。B群およびC群が侵襲性感染症の50~80%を引き起こしている(1)。A群は米国ではまれである。

参考文献

  1. 1.Centers for Disease Control and Prevention: The Pink Book: Meningococcal Disease.Accessed 08/24/2022.

髄膜炎菌による疾患

髄膜炎菌感染症のうち90%以上が以下の病態である:

生後3カ月以上の乳児における細菌性髄膜炎も参照のこと。)

肺,関節,気道,泌尿生殖器,直腸,眼,心内膜,および心膜の感染症が生じうるが,比較的まれである。

髄膜炎菌(N. meningitidis)は尿道炎および子宮頸管炎を引き起こすと報告されている。最近になって,男性と性行為をする男性で髄膜炎菌性尿道炎の発生率が上昇しており,典型的には口腔咽頭の髄膜炎菌保菌者との口腔生殖器接触に続いて罹患している。髄膜炎菌(N. meningitidis)は上咽頭に定着する。髄膜炎菌(N. meningitidis)は直腸炎を引き起こすこともある(主に男性と性行為をする男性)。

髄膜炎菌感染症の病態生理

髄膜炎菌は無症状のまま上咽頭に定着することができる(保菌状態)。高い定着率(健常者の5~40%)が確認されているが(一過性,短期,長期のいずれもありうる),侵襲性疾患への移行はまれである(1%未満)。保菌状態から侵襲性疾患への移行には,おそらく複数の因子が複合的に関与すると考えられるが,この移行は主に感染歴のない患者でみられる。保菌者(および感染した患者)からは,気道分泌物への直接の接触または大きな飛沫核の吸入によって他者に伝播する可能性がある。鼻咽頭保菌率は青年と若年成人で最も高く,これらの集団が髄膜炎菌(N. meningitidis)の重要な伝播経路となっている。保菌率は大流行時に劇的に上昇する。

体内に侵入した髄膜炎菌(N. meningitidis)は,小児および成人において髄膜炎と重度の菌血症を引き起こし,結果として血管に重大な影響を及ぼす。感染が急速に劇症化することがある。髄膜炎単独での致死率は4~6%であり,対して敗血症性ショックを伴う髄膜炎菌血症では最大40%である。

危険因子

最も感染の頻度が高い集団は以下の通りである:

  • 生後6カ月から3歳までの小児

その他の高リスク群としては以下のものがある:

  • 青年および若年成人(16~20歳)

  • 軍隊の新兵

  • 寮で生活する大学の新入生

  • 髄膜炎菌感染症の頻度が高い地域(例,アフリカの特定の国,ハッジ[大巡礼]中のサウジアラビア)への旅行者

  • 機能的または解剖学的無脾症や補体欠損症のある人々

  • HIV感染者

  • エクリズマブまたはラブリズマブによる治療を受けている人々

  • 髄膜炎菌(N. meningitidis)の分離株を扱う微生物学者

  • 侵襲性髄膜炎菌感染症の患者との濃厚接触者

感染またはワクチン接種により血清群に特異的な免疫が獲得される。

先行するウイルス感染症,家庭内の混み合い,慢性の基礎疾患,ならびに能動および受動喫煙は,髄膜炎菌感染症のリスク増加と関連する(1)。

病態生理に関する参考文献

  1. 1.Mbaeyi SA, Bozio CH, Duffy J, et al: Meningococcal Vaccination: Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices, United States, 2020.MMWR Recomm Rep 69(No. RR-9):1–41, 2020.doi: 10.15585/mmwr.rr6909a1

髄膜炎菌感染症の症状と徴候

髄膜炎患者は,しばしば発熱,頭痛,項部硬直を訴える。その他の症状としては,悪心,嘔吐,羞明,嗜眠などがある。発症直後には斑状丘疹状または点状出血性の発疹がしばしば出現する。身体診察の際に髄膜刺激徴候を認めることが多い。

劇症型髄膜炎菌血症症候群には,Waterhouse-Friderichsen症候群(敗血症,著明なショック,皮膚の紫斑,副腎出血),多臓器不全を伴う敗血症,ショック,播種性血管内凝固症候群などがある。まれに,慢性の髄膜炎菌血症により軽度の症状(大半が関節および皮膚症状)が再発することがある。

髄膜炎菌性髄膜炎の合併症は頻度が高く,重篤である。回復した患者でも,10~20%に永続的な難聴,知的障害,手指や四肢の切断といった重篤な後遺症が残る。

髄膜炎菌血症の画像
髄膜炎菌血症
髄膜炎菌血症

劇症型の髄膜炎菌血症は,最初は点状出血を引き起こし,それらが融合して急速に斑状出血へと進行する。

Image courtesy of Mr. Gust via the Public Health Image Library of the Centers for Disease Control and Prevention.

髄膜炎菌血症に続発した点状出血と紫斑
髄膜炎菌血症に続発した点状出血と紫斑

小児の顔面に点状出血と紫斑が認められる。経鼻胃管からの血液の逆流は,同じく髄膜炎菌血症に続発する播種性血管内凝固症候群と一致する。

© Springer Science+Business Media

髄膜炎菌血症に続発した点状出血(下肢)
髄膜炎菌血症に続発した点状出血(下肢)

© Springer Science+Business Media

髄膜炎菌血症に続発した点状出血(足)
髄膜炎菌血症に続発した点状出血(足)

Image courtesy of Karen McKoy, MD.

髄膜炎菌血症に続発した範囲の発疹
髄膜炎菌血症に続発した範囲の発疹

髄膜炎菌血症に続発した点状出血と紫斑が大きく広がっている。これらの病変は体幹と下肢でよくみられる傾向がある。

© Springer Science+Business Media

髄膜炎菌血症に続発した皮膚壊死
髄膜炎菌血症に続発した皮膚壊死

点状出血は一部の領域では孤立してみられ,別の領域では融合して壊死を起こしている(左)。広範囲の壊死がみられる(右)。

© Springer Science+Business Media

髄膜炎菌感染症の診断

  • グラム染色および培養

  • ときにPCR検査などの核酸検査(NAAT)

Neisseria属細菌は,小さなグラム陰性双球菌であり,グラム染色や他の標準的な細菌学的同定法で容易に同定できる。ラテックス凝集法や共凝集反応法などの血清学的方法により,血中,髄液中,滑液中,および尿中の髄膜炎菌(N. meningitidis)について暫定的な診断を迅速に下すことが可能である。ただし,その結果が陽性であれ陰性であれ,培養により確認すべきである。

髄液や血液など正常時は無菌の部位から採取した検体で髄膜炎菌(N. meningitidis)を検出するPCR検査は,培養よりも感度および特異度が高く,髄液のグラム染色で陰性となり,先行する抗菌薬投与により微生物の分離が困難になった状況で有用となりうる。

髄膜炎菌と淋菌はグラム染色では類似して見えるため,尿道分泌物でグラム陰性双球菌を認めるが,NAATで淋菌陰性となった場合には,髄膜炎菌性尿道炎を考慮すべきである;この状況では,感染を引き起こしているNeisseria属細菌を同定するために尿道分泌物の培養が必要である(CDCのDiseases Characterized by Urethritis and Cervicitisを参照)。

髄膜炎菌感染症の治療

  • セフトリアキソン

  • デキサメタゾン

起因菌の最終的な同定までの間には,髄膜炎菌感染が疑われる免疫能正常の成人では第3世代セファロスポリン系薬剤(例,セフォタキシム2g,静注,4~6時間毎,セフトリアキソン2g,静注,12時間毎)またはメロペネム(2g,静注,8時間毎)に加えてバンコマイシンを15~20mg/kg,静注,8~12時間毎で投与する。易感染性患者と50歳以上の患者では,Listeria monocytogenesにも対応するため,アンピシリン2g,静注,4時間毎の追加を考慮すべきである。フルオロキノロン系抗菌薬であるモキシフロキサシンは,ペニシリンおよびセファロスポリン系にアレルギーのある患者に対する代替薬である。

最終的に髄膜炎菌(N. meningitidis)と同定された場合,望ましい治療法は以下のいずれかである:

  • セフトリアキソン2g,静注,12時間毎

  • ペニシリン400万単位,静注,4時間毎

多くの国で,依然としてベンジルペニシリンが髄膜炎菌による侵襲性疾患に対する第1選択薬となっている。しかし,米国を含む多くの国では,ペニシリンに対する感受性が低下した分離株の頻度が増加しているため,これらの国では典型的にはセフトリアキソンセフォタキシムなどの第3世代セファロスポリン系薬剤による初期治療が行われる。また,ペニシリンを使用する場合は,鼻咽頭保菌を解消するため,セフトリアキソン,シプロフロキサシン,またはリファンピシンによるフォローアップ治療が必要である。ペニシリン系と第3世代セファロスポリン系の両方に耐性を示した分離株が報告されている。

インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)b型または肺炎球菌(S. pneumoniae)による細菌性髄膜炎が疑われる小児および成人では,コルチコステロイドの投与により神経系合併症の発生率が低下する。髄膜炎菌(N. meningitidis)が原因である場合のエビデンスはあまり明確ではない。しかしながら,高用量のコルチコステロイドは,髄膜炎を伴わない髄膜炎菌性のショックにおいて転帰を悪化させるため,そのような症例では用いてはならない;ただし,副腎機能が不十分な患者では低用量のコルチコステロイドを用いてもよい。コルチコステロイドを使用する場合は,抗菌薬と同時か抗菌薬の初回投与前に投与すべきである。デキサメタゾンを小児には0.15mg/kg,静注,6時間毎,成人には10mg,静注,6時間毎の用量で4日間投与する。

髄膜炎菌性尿道炎は淋病性尿道炎と同じレジメンで治療する。髄膜炎菌性尿道炎の性感染のリスクは不明であるが,セックスパートナーの治療を考慮することができる(CDCのDiseases Characterized by Urethritis and Cervicitisを参照)。

髄膜炎菌感染症の予防

抗菌薬の予防投与

髄膜炎菌感染患者との濃厚接触者には,感染リスクが高いことから,予防的抗菌薬投与を行うべきである。

選択肢としては以下のものがある:

  • リファンピシン600mg(生後1カ月以上の小児には10mg/kg;1カ月未満の小児には5mg/kg),経口,12時間毎,4回

  • セフトリアキソン250mg(15歳未満の小児には125mg,15歳以上の小児には250mg),筋注,単回

  • 成人では,フルオロキノロン系薬剤(シプロフロキサシンもしくはレボフロキサシン500mgまたはオフロキサシン400mg)経口,単回;生後1カ月以上の小児には,シプロフロキサシン20mg/kg,経口,単回(最大用量500mg)

アジスロマイシンのルーチンな使用は推奨されないが,最近の研究によって500mg単回投与が化学予防においてリファンピシンと同等であることが示されたことから,推奨薬剤の禁忌がある患者には代替薬として使用してもよいであろう。

シプロフロキサシン耐性髄膜炎菌による疾患はまれであるが,いくつかの国(ギリシャ,イングランド,ウェールズ,オーストラリア,スペイン,アルゼンチン,フランス,およびインド)と米国の2つの州(ノースダコタ州およびミネソタ州)で報告されている。曝露後予防のために抗菌薬を選択する際は,地域のシプロフロキサシン耐性髄膜炎菌の報告を考慮すべきである。

予防接種

適応禁忌および注意事項用量・用法有害作用などのより詳細な情報については,髄膜炎菌ワクチンを参照のこと。米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)の小児および成人に対する予防接種スケジュールおよびAdvisory Committee on Immunization Practices(ACIP)の髄膜炎菌ワクチンに関する勧告も参照のこと。

髄膜炎菌ワクチンにはいくつかの種類がある:

  • 髄膜炎菌で頻度の高い6つの病原性血清群のうち4つ(B群とX群を除いた全て)に対して防御効果がある3つの4価結合型ワクチン(MenACWY-D,MenACWY-CRM.およびMenACWY-TT)が使用可能である。

  • C群およびY群に対して防御効果があり,破傷風トキソイドおよびインフルエンザ(Haemophilus influenzae)b型ワクチンとの混合(Hib-MenCY-TT)でのみ利用可能な2価結合型ワクチンが,髄膜炎菌感染症のリスクが高い生後6週から18カ月までの小児を対象として承認されているが,Hib-MenCY-TTは米国では入手できなくなっている(1)。

  • 56歳以上の選択された患者に使用される4価多糖体ワクチン(MPSV4)は,米国では入手できなくなっている。

  • B群に対して防御効果がある2つの1価ワクチン(MenB-4CおよびMenB-FHbp)が使用可能である。

全ての小児に対し,4価結合型ワクチンを11~12歳時に接種するとともに,16歳時に追加接種を1回行うべきである(ルーチンの小児予防接種スケジュールも参照)。これらのワクチンはリスクが高い成人にも推奨される。

B群髄膜炎菌感染症のリスクが高い10歳以上の個人には,MenB-4CまたはMenB-FHbpが推奨される。

予防に関する参考文献

  1. 1.Mbaeyi SA, Bozio CH, Duffy J, et al: Meningococcal vaccination: Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices, United States, 2020.MMWR Recomm Rep 69(No. RR-9):1–41, 2020.doi: 10.15585/mmwr.rr6909a1

要点

  • 髄膜炎菌感染症の90%以上は髄膜炎または髄膜炎菌血症を呈する。

  • 無症状の上咽頭保菌状態がよくみられ,通常は保菌者由来の気道分泌物への直接接触によって菌が伝播する。

  • 米国では,大半が散発例で,典型的には2歳未満の小児に発生するが,アウトブレイクが起こる可能性もあり,特に半閉鎖的な共同体(例,新兵募集キャンプ,大学寮,託児所)でよくみられ,16~23歳の患者が多い。

  • セフトリアキソンまたはペニシリンで治療し,髄膜炎患者にはデキサメタゾンを追加する。

  • 濃厚接触者には予防的抗菌薬投与を行う。

  • 全ての小児に対して11歳または12歳時から予防接種を開始し,より若年の高リスクの小児とその他の高リスクの個人には選択的に予防接種を行う。

より詳細な情報

有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. Centers for Disease Control and Prevention (CDC): Vaccine schedule for children 18 years of age or younger

  2. CDC: Vaccine schedule for adults

  3. CDC: Meningococcal vaccination recommendations for infants

  4. CDC: Meningococcal Outbreaks

  5. CDC: STI Treatment Guidelines 2021: Diseases Characterized by Urethritis and Cervicitis

  6. Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP): Meningococcal vaccine recommendations

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