ハンタウイルス感染症

執筆者:Thomas M. Yuill, PhD, University of Wisconsin-Madison
レビュー/改訂 2023年 6月
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ハンタウイルス科(Hantaviridae)は,エンベロープに包まれた一本鎖RNAウイルスのグループであり,少なくとも4つの血清型から成る9種のウイルスが含まれ,これらのウイルスは2種類の主要な(ときに重複する)臨床症候群を引き起こす:

アルボウイルス,アレナウイルス,およびフィロウイルス感染症の概要も参照のこと。)

HFRSを引き起こすウイルスは,ハンターンウイルス,ソウルウイルス,ドブラバ(ベオグラード)ウイルス,サーラマーウイルス(Saaremaa virus),アムールウイルス(Amur virus),およびプーマラウイルスである。

HPSを引き起こすウイルスは以下の通り地域によって異なる(1):

  • アルゼンチン:アンデス,Arraraquara,Bermejo,Juquitiba,Lechiguanas,Laguna Negra,Maciel,およびOranウイルス

  • ブラジル:ArraaquaraおよびJuquitibaウイルス

  • チリおよびボリビア東部:アンデスウイルス

  • 北米:シンノンブレウイルス,ブラッククリークカナルウイルス,バヨウウイルス,およびMonongahelaウイルス

  • パナマ:Chocloウイルス

  • パラグアイおよびボリビア:Laguna Negraウイルス

ハンタウイルスは世界中の野生の齧歯類にみられ,その生涯にわたり唾液,尿および糞中に排出される。伝播は齧歯類間で起こる。ヒトへの伝播は,齧歯類の排泄物のエアロゾルを吸入したり,まれに齧歯類に咬まれたりすることによって起こる。アンデスウイルスはヒトからヒトへの伝播が起こりうる。自然感染および検査室での感染が以前より多くなってきている。

検査によるハンタウイルス感染症の診断は,血清学的検査および逆転写PCR(RT-PCR)検査により確定される。血清学的検査には,酵素結合免疫吸着測定法(ELISA),ウェスタンブロット法とストリップイムノブロット法(strip immunoblot assay)などがある。北米における血清学的診断は,交差反応の可能性があるため,ソウルウイルス感染症とシンノンブレウイルス感染症を鑑別できなければならない。ウイルスの培養は技術的には困難であり,バイオセーフティレベル3の検査室が必要である。

総論の参考文献

  1. 1.Milholland MT, Castro-Arellano I, Suzán G, et al: Global diversity and distribution of hantaviruses and their hosts.EcoHealth 15 (1):163-208, 2018.doi:10.1007/s10393-017-1305-2.

腎症候性出血熱

腎症候性出血熱(HFRS)とは,ハンタウイルスによって引き起こされる一群の類似疾患の総称であり,流行性出血熱,韓国型出血熱,流行性腎症などが含まれる;これらはインフルエンザ様疾患として始まり,ショック,出血,および腎不全へと進行することがある。診断は血清学的検査およびPCR検査による。死亡率は6~15%である。治療法にはリバビリン静注などがある。

腎症候性出血熱の一部の病型は軽症である(例,スカンジナビア,旧ソビエト連邦西部,および欧州でみられるプーマラウイルスによる流行性腎症)。別の一部は通常軽症であるがときに重症化することがある(例,野生のドブネズミおよび家畜化されたラットを宿主として世界中に分布するソウルウイルス)。さらに別の一部は重症化する(例,朝鮮半島,中国,ロシアなどでみられるハンターンウイルスによる疾患またはバルカン半島などでみられるドブラバ[ベオグラード]ウイルスによる疾患)。

感染症は,齧歯類の排泄物吸入によりヒトへ伝播される。

HFRSの症状と徴候

潜伏期間は約2週間である。

軽症型では,感染してもしばしば無症状である。

症候性のHFRSは,発熱期,低血圧期,乏尿期,多尿期,回復期の5つの段階を経る(1)。

発熱期は突然発症し,高熱,頭痛,背部痛,悪心,嘔吐,および腹痛といった症状がみられる。

相対的徐脈がみられ,発熱のある患者の約11~40%で低血圧が起こり,うち約3分の1の患者はショックを来す。痙攣発作または重度の局所神経症状が1%に発生する(2)。血小板減少による出血性合併症が発生することがある(例,消化管出血,血尿)。

そして腎不全に至り,患者は乏尿になる;この段階は死亡リスクが最も高い。その後多尿が生じ,腎機能が改善する。

症状と徴候に関する参考文献

  1. 1.Sehgal A, Mehta S, Sahay K, et al: Hemorrhagic Fever with Renal Syndrome in Asia: History, Pathogenesis, Diagnosis, Treatment, and Prevention. Viruses 15(2):561, 2023.Published 2023 Feb 18.doi:10.3390/v15020561

  2. 2.Lupuşoru G, Lupuşoru M, Ailincăi I, et al: Hanta hemorrhagic fever with renal syndrome: A pathology in whose diagnosis kidney biopsy plays a major role (Review). Exp Ther Med 22(3):984, 2021.doi:10.3892/etm.2021.10416

HFRSの診断

  • 血清学的検査またはPCR検査

曝露の可能性がある患者で発熱,出血傾向,および腎不全がみられた場合は,腎症候性出血熱を疑う。

続いて,血算,電解質レベル,腎機能検査,凝固検査,および尿検査を行う。ハンタウイルス感染症は,血小板減少,タンパク尿,および顕微鏡的血尿の三徴を証明することで迅速に推定診断を下すことができる。低血圧期の間はヘマトクリットが上昇し,白血球増多および血小板減少がみられる。アルブミン尿,血尿,ならびに赤血球および白血球円柱が,通常は2日目から5日目までに生じる場合がある。利尿期には,電解質異常がよくみられる。

HFRSの診断は,最終的には血清学的検査またはPCRに基づいて行う。

HFRSの治療

  • リバビリン

  • ときに腎透析

腎症候性出血熱の治療は,リバビリンの静注による。

利尿期は特に支持療法(腎透析を含めることもある)が重要である。

HFRSの予後

利尿期の間は,体液量減少,電解質異常,または二次感染のために死に至ることもある。回復には通常3~6週間かかるが最長で6カ月要することもある。

全体での死亡率は5~15%であり,死亡例はいずれもより重症の病型で発生している(Centers for Disease Control and Prevention [CDC]: Hemorrhagic Fever with Renal Syndromeを参照)。後遺症の腎機能障害は,バルカン半島で起こる重症型を除きまれである。

ハンタウイルス肺症候群

ハンタウイルス肺症候群(HPS)は米国(主に南西部の州),カナダ(主に西部の州),南米およびパナマで発生している。インフルエンザ様疾患として始まり,数日以内に非心原性肺水腫を引き起こす。診断は血清学的検査および逆転写PCR(RT-PCR)検査による。比較的重症例の致死率は最大50%である。治療は支持療法による。

HPSの大半の症例は,以下によって引き起こされる:

  • シンノンブレ,アンデス,およびChocloハンタウイルス

それ以外は,以下によって引き起こされる:

  • 米国南東部およびメキシコのブラッククリークカナルウイルス,Muleshoeウイルス,およびバヨウウイルス

  • 米国東海岸のニューヨークウイルス(シンノンブレウイルスの変異種)

  • 北米の西海岸のConvict CreekウイルスおよびIsla Vistaウイルス

  • 南米のLaguna Negra(およびそのRio Mamore変異種),アンデス様ウイルス(Hu39694,Lechiguanas,Oran),Central Plata,Buenos Aires,Rio Mearim,Juquitiba,Juquitiba-like,Ape Aime Itapua,Araucaria,Jabora,Neembucu,Anajatuba,Castelo dos Sonhos,Maripo,およびBermejoハンタウイルス

感染症は,アメリカネズミ亜科の齧歯類(特にシンノンブレウイルスを伝播するシカネズミ)の排泄物吸入によりヒトへ伝播される。大半の症例は,ミシシッピ川の西側で春または夏に起こり,豪雨の後が典型的であるが,これはこのような季節の豪雨が植物の成長を促し,それを食物とする齧歯類の個体数増加につながるためである。

HPSの症状と徴候

ハンタウイルス肺症候群は,非特異的なインフルエンザ様疾患として始まり,急性の発熱,筋肉痛,頭痛,および消化管症状を伴う。2~15日後(中央値は4日後),急激に非心原性肺水腫および低血圧が生じる。

HFRSおよびHPSの合併例が数件報告されている。軽症のHPSが起こる可能性がある。

HPSの診断

  • 血清学的検査またはPCR検査

曝露の可能性がある患者で臨床所見またはX線所見により原因不明の肺水腫が認められた場合は,ハンタウイルス肺症候群を疑う。胸部X線像で血管陰影の増強,Kerley B line,両側性の浸潤,または胸水を認めることがある。

HPSが疑われる場合は,心原性肺水腫を除外するために心エコー検査を施行すべきである。

血算,肝機能検査,および尿検査も通常行われる。HPSは好中球優位の軽度の白血球増多,血液濃縮,および血小板減少を引き起こす。血清アルブミンの低下を伴う乳酸脱水素酵素,アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ,およびアラニンアミノトランスフェラーゼの軽度上昇は典型的である。尿検査ではごく軽微な異常を認める。

HPSの診断は血清学的検査または逆転写PCR検査による。

HPSの治療

  • 支持療法

ハンタウイルス肺症候群の治療は支持療法による。機械的人工換気,綿密な循環血漿量調節,および昇圧薬が必要になることがある。重度の心肺機能不全では,体外循環式の人工心肺装置で救命可能となることがある(Centers for Disease Control and Prevention: Hantavirus Virus: Treatmentも参照)。

リバビリン静注は腎症候性出血熱への有効性があるにもかかわらず,HPSの治療に効果的であることは示されていない。

HPSの予後

最初の数日間を生き延びたHPS患者は急速に改善し,2~3週間でしばしば後遺症もなく完全に回復する。比較的重症例の致死率は最大50%である。

より詳細な情報

有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. Centers for Disease Control and Prevention: Hantavirus Virus: Information for Health Care Workers: Information about surveillance case definitions and specimen submission

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