慢性骨髄性白血病(CML)

(慢性顆粒球性白血病;慢性骨髄球性白血病;慢性骨髄性白血病)

執筆者:Ashkan Emadi, MD, PhD, West Virginia University School of Medicine, Robert C. Byrd Health Sciences Center;
Jennie York Law, MD, University of Maryland, School of Medicine
レビュー/改訂 2022年 6月
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慢性骨髄性白血病(CML)は,多能性造血幹細胞が悪性化してクローン性の骨髄増殖を起こすことで発生し,成熟および幼若顆粒球の著しい過剰産生をもたらす。初期段階では無症状であるが,潜行性に進行し,非特異的な「慢性期」(倦怠感,食欲不振,体重減少)があり,最終的には,脾腫,蒼白,紫斑ができやすいおよび出血しやすい状態,発熱,リンパ節腫脹,皮膚の変化などの,より不良な徴候を呈する移行期または急性転化期に移行する。末梢血塗抹検査,骨髄穿刺,およびフィラデルフィア染色体の証明により診断される。治療はイマチニブ,ダサチニブ,ニロチニブ,ボスチニブ,ポナチニブなどのチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)によるが,これにより反応が著しく向上しており,生存期間が延長している。骨髄抑制薬(例,ヒドロキシカルバミド),造血幹細胞移植,およびインターフェロンαもときに使用される。

白血病の概要も参照のこと。)

American Cancer Societyは,2022年の米国ではCMLの新規症例数が約8800例となり,約1220人がCMLで死亡すると推定している。CML患者の平均年齢は64歳である。米国におけるCMLの平均生涯リスクは男女とも約0.19%(米国人の526人に1人)である。

CMLの病態生理

慢性骨髄性白血病の90~95%にフィラデルフィア(Ph)染色体がみられる。Ph染色体は,9番染色体と22番染色体の相互転座t(9;22)の産物である。この転座では,がん遺伝子ABLを含む9番染色体の一部が22番染色体に転座し,BCR遺伝子と融合する。キメラ融合遺伝子BCR-ABLががんタンパク質のbcr-ablチロシンキナーゼの産生に関与している。

がんタンパク質のbcr-ablは無秩序なチロシンキナーゼ活性を有し,それにより細胞増殖を抑える機構が解除され,白血病細胞の骨髄間質への接着が減少するとともに,正常なプログラム細胞死(アポトーシス)から白血病細胞が保護される。

CMLは,異常な多能性造血前駆細胞が主に骨髄や髄外部位(例,脾臓,肝臓)において全ての骨髄系細胞の過剰産生を惹起することで生じる。顆粒球産生が優勢であるが,腫瘍性クローンには,赤血球,巨核球,単球のほか,一部のT細胞およびB細胞も含まれる。正常な幹細胞は温存されており,薬剤によるCMLクローンの抑制後に出現することがある。

無治療の場合,CMLは以下の3つの段階を経過する:

  • 慢性期:初期の進行が緩徐な期間であり,5~6年続くことがある。

  • 移行期:治療の不成功,貧血の悪化,進行性の血小板減少症または血小板増多症,脾腫の持続または悪化,クローン進化,血中好塩基球の増加,および骨髄中または血中芽球の増加がみられる(最大19%)。

  • 急性転化期:髄外部位(例,骨,中枢神経系,リンパ節,皮膚)における芽球の蓄積,血中または骨髄中の芽球が20%以上の増加を示す。

急性転化期では,敗血症や出血など,急性白血病と同様の急激な合併症が発生する。慢性期から直接急性転化期へ進行する患者もいる。

CMLの症状と徴候

CML患者の約85%が初診時に慢性期である。初期には無症状であることが多く,潜行性で非特異的な症状(例,易疲労感,筋力低下,食欲不振,体重減少,盗汗,腹部膨満感[特に左上腹部],痛風性関節炎,白血球停滞の症状[耳鳴,昏迷,蕁麻疹など])が発現し,それらが受診の契機となる場合がある。

初期に蒼白,出血,紫斑ができやすい状態,リンパ節腫脹がみられることはまれであるが,中等度ないしときに重度の脾腫がよくみられる(症例の60~70%)。進行に伴い,脾腫が増大することがあり,蒼白および出血が生じる。発熱,著明なリンパ節腫脹,および斑丘疹性の皮膚浸潤は,予後不良の臨床像である。

CMLの診断

  • 血算

  • 骨髄検査

  • 染色体検査(Ph染色体)

慢性骨髄性白血病は,偶然に,または脾腫の評価中に得られた血算の異常に基づいて疑われる頻度が最も高い。顆粒球数が上昇し,通常は無症状の患者で50,000/μL(50 × 109/L)未満,症状のある患者で200,000/μL(200 × 109/L)~1,000,000/μL(1000 × 109/L)である。好中球増多(白血球分画での左方移動),好塩基球増多,および好酸球増多がよくみられる。血小板数は正常値または中等度の高値となり,一部の患者では血小板増多が最初の臨床像となる。ヘモグロビン値は通常10g/dL(100g/L)を上回る。

末梢血塗抹検査は,CMLを他の病因による白血球増多症と鑑別する上で参考になることがある。CMLの末梢血塗抹標本では,しばしば幼弱顆粒球に加えて,好酸球数および好塩基球数の増加が認められる。ただし,白血球数が50,000/μL(50 × 109/L)以下である患者の一部や,白血球数がこれより多い患者の一部でも,幼弱顆粒球がみられないことがある。

骨髄検査を行い,骨髄細胞数および骨髄線維化の程度に加え,核型を評価すべきである。

細胞遺伝学的または分子遺伝学的検査で検討した検体においてPh染色体を認めることにより,診断が確定される。5%の患者では細胞遺伝学的に古典的なPhの異常がみられないが,その場合も蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)または逆転写PCR法(RT-PCR)を用いることで確定診断が可能である。

CMLの移行期には,貧血および血小板減少症が通常みられる。好塩基球が増加し,顆粒球の成熟が障害されることがある。幼若細胞の割合が上昇することがある。骨髄では,骨髄線維症が起きたり,環状鉄芽球や赤芽球癆がみられたりすることもあるが,骨髄の細胞密度が増加するせいで,これらが見逃される可能性がある。腫瘍性クローンの進化は,新たな核型異常(しばしば過剰な8番染色体,17番同腕[iso]染色体[i(17q)],またはbcr-ablの重複)の発生と関連することがある。

さらに進化すると,急性転化期に移行し,骨髄芽球性(患者の60%),リンパ芽球性(30%),巨核芽球性(10%),およびまれに赤芽球性がみられる。こうした患者の80%では,別の染色体異常がみられる。

CMLの予後

現在では,チロシンキナーゼ阻害薬を使用する場合,慢性期CMLの診断から5年後時点での生存率が90%を超えている。チロシンキナーゼ阻害薬が使用されるようになる前は,治療を行っても5~10%の患者が診断から2年以内に死亡し,それ以降も1年毎に10~15%の患者が死亡していた。生存期間の中央値は4~7年であった。大半(90%)の死亡がCMLの急性転化期または移行期の後にみられた。急性転化期後の生存期間の中央値は約3~6カ月で,寛解導入が達成された場合はこれより長かった。

CMLの治療

  • チロシンキナーゼ阻害薬

  • ときに同種造血幹細胞移植

慢性骨髄性白血病の治療は,疾患の病期に依存する。無症状の慢性期では,チロシンキナーゼ阻害薬(例,イマチニブ,ニロチニブ,ダサチニブ,ボスチニブ,ポナチニブ)が初期治療の選択肢であり,治癒は得られないものの,極めて効果的である。移行期または急性転化期にも,ときにチロシンキナーゼ阻害薬が使用されることがある。同種造血幹細胞移植は,移行期もしくは急性転化期の患者または利用可能なチロシンキナーゼ阻害薬に抵抗性の患者に対してのみ使用される。

2つ以上のチロシンキナーゼ阻害薬による治療歴があるCMLまたはT315I変異を有する慢性期のCMLには,アシミニブ(ABLポケット結合型阻害薬)が使用可能である。

造血幹細胞移植が成功した場合を除いて,治療による治癒は立証されてない。しかし,チロシンキナーゼ阻害薬により生存期間が延長する。チロシンキナーゼ阻害薬が中止可能で,寛解が持続する可能性のある患者もいる。これらの寛解の持続期間は,今のところ不明である。

チロシンキナーゼ阻害薬は,CML発症に関与するがん遺伝子BCR-ABLを阻害する。これらの薬剤は,Ph染色体陽性CML(Ph陽性CML)で血液学的および細胞遺伝学的完全寛解を達成する上で劇的な効果を示し,他のレジメン(例,インターフェロン単独またはシタラビンとの併用)よりも明らかに優れている。

TKI療法に対する反応は,CML患者で最も重要な予後因子である。患者の反応は,ベースラインに加えて,3カ月後,6カ月後,および1年後に判定する。治療に対する反応は,分子遺伝学的検査(BCR-ABLタンパク質の測定)または細胞遺伝学的検査(Ph染色体を有する細胞の測定)のいずれかにより評価可能であるが,両方とも可能であれば常に推奨される。分子遺伝学的大奏効は,血中BCR-ABLが未治療CMLで予測される値の1/1000を下回る(またはそれ以下)として定義される。12カ月後に分子遺伝学的大奏効を達成した場合は,BCR-ABLタンパク質のリアルタイム定量PCR法により3~6カ月毎に反応をモニタリングすることができ,標準化された分子遺伝学的検査が不成功に終わるか,そうした検査法が利用できない場合にのみ,細胞遺伝学的検査が必要となる。

まれに,CMLの緩和療法として他の薬剤が用いられる。これらの薬剤には,ヒドロキシカルバミド,ブスルファン,遺伝子組換えインターフェロン,ペグインターフェロンなどがある。ヒドロキシカルバミドの主なベネフィットは,脾腫およびリンパ節腫脹による苦痛を緩和させることに加え,腫瘍量をコントロールして腫瘍崩壊症候群および痛風の発生率を低下させることである。これらの薬剤はいずれも生存期間を延長させないようであるが,インターフェロンは約19%の患者で臨床的寛解をもたらす可能性がある。

同種造血幹細胞移植は,その毒性のため,またチロシンキナーゼ阻害薬が有効であることから,選択的に使用される。移植は,BCR-ABL阻害薬に抵抗性の移行期または急性転化期のCML患者に対してのみ使用する。移植により治癒が得られる可能性がある。

要点

  • 慢性骨髄性白血病(CML)には,フィラデルフィア染色体を形成する染色体転座t(9;22)が関与している。

  • CMLを他の病因による白血球増多症(例,感染症による白血球増多症)と鑑別する上では,末梢血塗抹検査(典型的には幼弱顆粒球,好塩基球増多,および好酸球増多が認められる)が役立つ。

  • チロシンキナーゼ阻害薬は極めて効果的であり,生存期間を延長し,治癒が得られることすらある。

  • 造血幹細胞移植では,治癒が得られる可能性があり,チロシンキナーゼ阻害薬に反応しない患者または移行期もしくは急性転化期に進行した患者に有用な場合がある。

より詳細な情報

有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. Leukemia and Lymphoma Society: Resources for Healthcare Professionals: Provides information on research and clinical trials and resources for referrals to specialty care

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