副甲状腺機能低下症は副甲状腺ホルモン(PTH)の欠乏であり,その欠乏は多くの場合,自己免疫疾患が原因であるか,甲状腺切除術または副甲状腺摘出術での副甲状腺の医原性損傷または切除によって生じる。副甲状腺機能低下症の症状は低カルシウム血症によるものであり,手または口周囲のピリピリ感や筋痙攣などがある。重症例では,テタニーが生じる。原因疾患の症状や徴候がみられることもある。診断には副甲状腺ホルモン濃度の測定が必要である。治療法としてはカルシウムおよびビタミンDの補充などがある。
副甲状腺機能低下症は,低カルシウム血症および高リン血症を特徴とし,しばしば慢性テタニーを引き起こす。
副甲状腺機能低下症の病因
副甲状腺機能低下症は副甲状腺ホルモン(PTH)の欠乏に起因し,欠乏は以下の状況で起こりうる:
甲状腺切除術または副甲状腺摘出術での複数の副甲状腺の切除または損傷
遺伝性または自己免疫疾患
術後副甲状腺機能低下症
甲状腺切除術後には一過性の副甲状腺機能低下症がよくみられるが,恒久的な副甲状腺機能低下症の頻度は,熟練した外科医が甲状腺切除術を執刀した場合,3%を下回る。低カルシウム血症の症状は,通常は術後約24~48時間で出現するが,数カ月後ないし数年後に現れることもある。がんに対する根治的甲状腺切除術や副甲状腺に対する手術(副甲状腺亜全摘術または全摘術)の術後には,PTHの欠乏がより高い頻度で起こる。副甲状腺亜全摘術後の重度低カルシウム血症の危険因子としては以下のものがある:
術前の重度高カルシウム血症
大きな甲状腺腺腫の切除
アルカリホスファターゼ上昇
特発性副甲状腺機能低下症
特発性副甲状腺機能低下症はまれである。副甲状腺が欠損または萎縮する孤発性または遺伝性の病態が原因である可能性がある。小児期に発症する。ときに副甲状腺の欠損がみられるほか,胸腺形成不全と鰓弓から発生する組織の異常(ディジョージ症候群)がある。
その他の原因としては,多腺性自己免疫不全症候群,皮膚粘膜カンジダ症に関連する自己免疫性副甲状腺機能低下症,X連鎖潜性(劣性)特発性副甲状腺機能低下症などがある。
偽性副甲状腺機能低下症
偽性副甲状腺機能低下症は,ホルモンの欠乏ではなく,標的臓器のPTH抵抗性を特徴とする,まれな疾患群である。これらの疾患の遺伝は様々な遺伝様式(常染色体潜性[劣性],顕性[優性],およびX連鎖)と様々な遺伝子(およびそれらの遺伝子を制御する遺伝子)を介して起こり,それらの遺伝子はいずれも1つの複雑な経路に関与している。
Ia型偽性副甲状腺機能低下症(オルブライト遺伝性骨異栄養症)は,アデニル酸シクラーゼ複合体を刺激するGsα1タンパク質(GNAS1)の変異によって引き起こされる。その結果,PTHに対する腎臓の正常なリン利尿反応や尿中cAMP(サイクリックアデノシン一リン酸)の増加が起こらなくなる。
患者は通常,低カルシウム血症および高リン血症を呈する。二次性副甲状腺機能亢進症と副甲状腺機能亢進症による骨疾患がみられることもある。合併する異常として,低身長,丸顔,大脳基底核石灰化を伴う知的障害,中手骨および中足骨の短縮,軽度の甲状腺機能低下症,その他の軽微な内分泌異常などがある。
GNAS1は腎臓では母親由来のアレルのみが発現するため,異常遺伝子が父親由来である患者では,本疾患の身体的特徴が多く認められるにもかかわらず,低カルシウム血症,高リン血症,および二次性副甲状腺機能亢進症がみられず,そのため本疾患は,ときに偽性偽性副甲状腺機能低下症(pseudopseudohypoparathyroidism)と呼ばれる。
Ib型偽性副甲状腺機能低下症は,あまり知られていない。この疾患の患者には低カルシウム血症,高リン血症,および二次性副甲状腺機能亢進症が認められるが,これら以外に合併する異常はない。
II型偽性副甲状腺機能低下症は,I型よりもさらにまれである。患者に外因性PTHを投与すると,尿中cAMP値は正常に上昇するが,血清カルシウムおよび尿中リンの値は上昇しない。cAMPに対する細胞内抵抗性が機序として提唱されている。
副甲状腺機能低下症の症状と徴候
手または口周囲のピリピリ感や筋痙攣など,低カルシウム血症による症状から副甲状腺機能低下症の存在が示唆されることがある。重症例では,テタニーが生じる。
何らかの基礎疾患の臨床像がみられることもある。
Ia型偽性副甲状腺機能低下症の患者には,低身長や第1,第4,第5中手骨の短縮といった骨格異常,丸顔,知的障害,大脳基底核石灰化症がしばしばみられ,ときに白斑がみられることもある。
Ib型患者では,低カルシウム血症と高リン血症による腎症状を呈するが,Ia型でみられる骨格異常はない。
II型偽性副甲状腺機能低下症の患者でも腎臓の異常がみられる。
cAMPの触媒サブユニットが関係する変異を有する患者では,複数のホルモン抵抗性,知的障害,および短指症もみられる。
副甲状腺機能低下症の診断
PTHおよびカルシウムの測定
インタクトPTHの濃度を測定すべきである。低カルシウム血症はPTH分泌の主要な刺激因子であるため,正常であれば低カルシウム血症に反応してPTH値が上昇するはずである。したがって:
低カルシウム血症がある患者でPTH濃度が低値ないし正常低値となるのは不適切な状態であり,副甲状腺機能低下症が示唆される。
PTH濃度が検出限界未満であれば,特発性副甲状腺機能低下症が示唆される。
PTH濃度の高値は,偽性副甲状腺機能低下症またはビタミンDの代謝異常を示唆する。
副甲状腺機能低下症はさらに,高い血清リン値と正常範囲内のアルカリホスファターゼ値も特徴とする。
I型偽性副甲状腺機能低下症では,血中PTH濃度が高値であるにもかかわらず,尿中にcAMPおよびリンは認められない。副甲状腺抽出物または遺伝子組換えヒトPTHを注射して行う誘発試験では,血清中または尿中のcAMP濃度は上昇しない。
副甲状腺機能低下症の治療
カルシウムとビタミンD
甲状腺切除術後または副甲状腺部分摘出術後の一過性の副甲状腺機能低下症には,カルシウムの経口補給で十分な場合がある:1日1~2gのカルシウムをグルコン酸カルシウム(1g当たりカルシウム90mg)または炭酸カルシウム(1g当たりカルシウム400mg)として投与することがある。
副甲状腺亜全摘術は,特に重度で遷延する低カルシウム血症の原因になることがあり,慢性腎臓病の患者と大きな腫瘍を摘出した患者では特にその可能性が高い。術後には注射剤によるカルシウム投与が長期にわたって必要になる場合があり,経口剤のカルシウムおよびビタミンDで十分になるまでの間,1g/日もの高用量でのカルシウム(例,10mL当たりカルシウム90mgを含有するグルコン酸カルシウムとして111mL/日)の静脈内投与が5~10日間必要になることもある。このような患者における血清アルカリホスファターゼ高値は,カルシウムが急速に骨に取り込まれている徴候である可能性がある。注射剤による大量のカルシウム投与は,通常はアルカリホスファターゼ値が低下し始めるまで必要である。
カルシウムおよびビタミンDの補充に十分に反応しない副甲状腺機能低下症には,遺伝子組換え副甲状腺ホルモン(rhPTH)による治療が必要になることがあり,これはまた副甲状腺機能低下症の長期合併症(例,高カルシウム尿症,骨密度低下)のリスクを低下させ,カルシウムおよびビタミンDの必要量を減少させる可能性がある。rhPTHの投与は50μg,1日1回,皮下で開始し,同時にビタミンDの用量を50%減量する。血清カルシウム濃度および血清リン濃度を綿密にモニタリングし,rhPTHの用量を最大100μg,1日1回,最小25μg,1日1回の範囲内で必要に応じて数週間毎に調節する。
要点
副甲状腺機能低下症は副甲状腺ホルモン(PTH)の欠乏であり,その欠乏は多くの場合,自己免疫疾患または甲状腺切除術での副甲状腺の切除が原因である。
副甲状腺機能低下症は,低カルシウム血症およびそれに関連する症状として,手または口周囲のピリピリ感や筋痙攣を引き起こす。重症例では,テタニーが生じる。
低カルシウム血症がある患者でPTH濃度が低値(正常低値を含む)であれば,診断が下される。
治療はカルシウムおよびビタミンDによる。一部の患者には遺伝子組換え副甲状腺ホルモン(rhPTH)が必要になる。