多発性内分泌腫瘍症4型(MEN 4)

(多発性内分泌腺腫症4型)

執筆者:Lawrence S. Kirschner, MD, PhD, The Ohio State University;
Pamela Brock, MS, CGC, The Ohio State University
レビュー/改訂 2023年 6月
意見 同じトピックページ はこちら

多発性内分泌腫瘍症4型(MEN 4)は,副甲状腺の腺腫,ときに過形成と膵島細胞および/または下垂体の腫瘍を特徴とする常染色体顕性(優性)の症候群である。副甲状腺機能亢進症と無症状の高カルシウム血症がよくみられる。診断はホルモン検査および画像検査による。症状を引き起こしている腫瘍は可能であれば外科的に切除する。腫瘍が症状を引き起こしているか,腫瘍径の基準に基づき悪性腫瘍が疑われる場合は,腫瘍を外科的に切除する。

MEN 4は,サイクリン依存性キナーゼインヒビター1Bタンパク質(p27またはp27KIP1としても知られる)をコードするCDKN1B遺伝子の不活化変異によって引き起こされる。このタンパク質は細胞の成長と発育に関与し,細胞周期の調節に重要な役割を果たしている。腫瘍抑制因子として振る舞い,このタンパク質が喪失すると,細胞は無秩序な複製を起こすようになり,最終的にがん化する可能性がある。

MEN 4はMEN 1と同じ主要臓器(副甲状腺,膵臓,および下垂体)を侵すが,高齢で発症し,MEN 1患者より緩徐な経過をたどる傾向がある。

MEN 4はMEN 1よりはるかに頻度が低く,現在までに世界の文献で報告されている患者数は100例未満である。

MEN 4の症状と徴候

MEN 4の臨床像はMEN 1のそれと基本的に同じであるが,若干の相違点がある。副甲状腺機能亢進症がみられるMEN 4患者の大半では副甲状腺腺腫が単発でみられるのに対し,MEN 1患者では4つ全ての副甲状腺に過形成がみられる。下垂体では,副腎皮質刺激ホルモン産生腺腫が最も頻度の高い腫瘍(33%)であるのに対し,プロラクチン(24%)または成長ホルモン(19%)を分泌する腫瘍はややまれである。膵神経内分泌腫瘍は,ガストリノーマ(33%)または非機能性腫瘍(66%)として特徴づけられている(1)。

症状と徴候に関する参考文献

  1. 1.Singeisen H, Renzulli MM, Pavlicek V, et al.Multiple endocrine neoplasia type 4: a new member of the MEN family. Endocr Connect 2023;12(2):e220411.doi:10.1530/EC-22-0411

MEN 4の診断

  • カルシウム,副甲状腺ホルモン(PTH),ガストリン,およびプロラクチンの血清中濃度

MEN 4の診断はMEN 1と同じアプローチに従い,ホルモン過剰を調べる血液検査とCDKN1B遺伝子の原因変異を同定する遺伝子検査を行う。MEN1とMEN 4は臨床的に類似するため,この一連の症状がみられる患者には,MEN1CDKN1Bの両方を含んだ遺伝子パネルによる遺伝子検査を行うべきである。

最初の臨床検査項目にはカルシウム,副甲状腺ホルモン,ガストリン,およびプロラクチンの血清中濃度を含める。これらの検査でMEN 1に関連する内分泌異常が示唆される場合は,追加の臨床検査または画像検査が必要になることがある。

膵臓または十二指腸のガストリン分泌性消化管・膵神経内分泌腫瘍(GEP-NET)の診断は,血漿ガストリン基礎濃度の上昇,カルシウム注入に対する過剰なガストリン反応,およびセクレチン注入後の奇異性ガストリン濃度上昇による。インスリン分泌性の膵 β細胞腫瘍は,血漿インスリン濃度の上昇を伴う空腹時低血糖によって診断する。膵ポリペプチドもしくはガストリンの基礎濃度の上昇,または標準食に対するこれらのホルモンの過剰反応は,膵病変の初発徴候である可能性がある。

先端巨大症の診断は,ブドウ糖投与で抑制されない成長ホルモン濃度高値,および血清インスリン様成長因子1(ソマトメジンC)濃度高値によって診断される。

超音波検査またはCTが腫瘍の局在診断に役立つ可能性がある。これらの腫瘍はしばしば小さく局在の決定が困難であるため,他の画像検査(例,ヘリカルCT,血管造影,MRI,超音波内視鏡検査,術中超音波)が必要になる場合もある。フッ素18[18F]標識デオキシグルコース(18F-FDG)またはガリウム68[68Ga]DOTATATE-PET/CTによる胸部画像検査は,気管支・肺神経内分泌腫瘍を良性の肺結節と鑑別し,胸腺カルチノイドを同定する上で有用となる可能性がある。膵および十二指腸神経内分泌腫瘍については,MEN 1患者26例を対象に複数の画像検査法を比較した研究において,68Ga-DOTATATE-PET/CTの感度がオクトレオチドシンチグラフィーまたはCTより3倍高かった;可能であれば,定期的な画像検査のためのオクトレオチドシンチグラフィーをこの検査に置き換えるべきである。

MEN 4の治療

  • 可能な場合,外科的切除

  • 薬剤を用いた内分泌障害の管理

MEN 4の治療はMEN 1の治療と同様であり,可能であれば腫瘍の切除から開始する。副甲状腺機能亢進症のあるMEN 4患者では典型的には単発性の腺腫がみられるため,術前に単一の腺腫を同定している場合は,他の腺の検索や切除は必要ないことがある。

腫瘍の完全切除が不可能な場合は,薬剤を使用してホルモン過剰を治療する。具体的には以下のものがある:

  • 副甲状腺機能亢進症による反復または遷延する高カルシウム血症に対するオクトレオチドおよびシナカルセト

  • プロラクチン分泌性下垂体腫瘍による高プロラクチン血症に対するドパミン作動薬

  • 高ガストリン血症による症状を伴う消化性潰瘍の症状コントロールのためのプロトンポンプ阻害薬

  • インスリノーマによる低血糖に対するジアゾキシドまたはソマトスタチンアナログ(オクトレオチド,ランレオチド)

  • 腫瘍量を減らすためのストレプトゾシンまたはその他の細胞傷害性薬剤

ソマトスタチンアナログは,カルチノイド腫瘍を含む他の非ガストリン分泌性膵腫瘍からのホルモン分泌を抑制する可能性もあり,忍容性が良好である。

転移性膵腫瘍に対する緩和治療には,肝臓の腫瘍減量手術および肝動脈化学塞栓療法などがある。

要点

  • 副甲状腺,膵臓,または下垂体に腫瘍がある患者,特にこれらの腫瘍の家族歴がある患者では,多発性内分泌腫瘍症4型(MEN 4)を考慮する。

  • 主な臨床像はホルモン過剰のそれであり,特に副甲状腺機能亢進症による高カルシウム血症が重要であるが,それらは典型的にはMEN 1の患者と比べて高齢で発症する。

  • がん原遺伝子CDKN1Bの変異を調べる遺伝子検査と,本症候群の一部として生じる他の腫瘍に関する臨床的評価を行うべきである。

  • 可能であれば腫瘍は切除するが,病変はしばしば多発性かつ/または発見が難しい。

  • ホルモン過剰はときに薬剤で管理できる。

quizzes_lightbulb_red
Test your KnowledgeTake a Quiz!
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS
医学事典MSDマニュアル モバイルアプリ版はこちら!ANDROID iOS