ビタミンA中毒

(レチノール中毒)

執筆者:Larry E. Johnson, MD, PhD, University of Arkansas for Medical Sciences
レビュー/改訂 2022年 11月
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ビタミンA中毒は急性(通常は小児による誤飲のため)または慢性のことがある。急性,慢性ともに通常,頭痛および頭蓋内圧亢進が起こる。急性中毒により悪心および嘔吐が起こる。慢性中毒により,皮膚,毛髪,および爪の変化;肝機能検査での異常な結果;ならびに先天異常(胎児で)が生じる。診断は通常,臨床的に行う。先天異常がない限り,ほぼ全ての場合,用量の調整によって完全な回復に至る。

ビタミンAは,網膜の光受容色素であるロドプシンの生成に必要である(ビタミンの供給源,機能,および作用の表を参照)。ビタミンAは,上皮組織の維持を助け,ライソゾームの安定性および糖タンパク質の合成に重要である。

プリフォームビタミンAの食物由来の供給源としては,魚の肝油,レバー,卵黄,バター,ビタミンA強化乳製品などがある。正常では,肝臓が体内のビタミンAの80~90%を貯蔵している。ビタミンAを利用するために,身体はビタミンAをプレアルブミン(トランスサイレチン)やレチノール結合タンパク質と結合させて循環系へ放出する。β‐カロテンおよび他のビタミン前駆物質であるカロテノイド(緑色葉野菜,黄色野菜,ニンジン,濃いまたは鮮やかな色の果物に含まれる)がビタミンAに変換される。カロテノイドは,野菜を調理するかまたは細かく砕いて,多少の脂肪(例,油)とともに摂取した場合に,よりよく吸収される。

レチノール活性当量(RAE)は,ビタミンA前駆物質であるカロテノイドのビタミンA活性がプリフォームビタミンAよりも低いために開発されたものであり,1μgレチノール = 3.33単位である。

合成ビタミン誘導体(レチノイド)の利用が皮膚科領域で増えつつある。一部の上皮性悪性腫瘍に対するβ‐カロテンおよびレチノイドの防御的な役割の可能性について,研究が行われている。

サプリメントとして摂取する場合,β‐カロテンはがんおよび心血管系のリスクの増大と関連することが報告されているが,果物や野菜からカロテノイドを摂取する場合にはリスクは増大しないと考えられる。

ビタミンの概要も参照のこと。)

ビタミンA中毒の病因

小児における急性ビタミンA中毒は,大量の服用(>300,000単位[>100,000RAE])によって生じる(通常は誤飲)。成人では,急性中毒は北極探検家がホッキョクグマまたはアザラシの肝臓(数百万単位のビタミンAが含まれている)を摂取した際に起こったことがある。

年長児および成人の慢性ビタミンA中毒は通常,100,000単位(30,000RAE)/日を超える用量で何カ月も服用し続けた後に生じる。大量ビタミン療法が原因となる可能性があり,同様に,結節性のざ瘡または他の皮膚疾患に対してときに行うビタミンAまたはその活性代謝物の連日大量投与(150,000~350,000単位[50,000~120,000RAE])も原因となる可能性がある。ビタミンAを4500単位(1500RAE)/日を超えて摂取する成人は,骨粗鬆症を発症することがある。水分散性ビタミンAの過量投与(18,000~60,000単位[6000~20,000RAE]/日)を受けた乳児は,数週間以内に中毒を発症することがある。妊娠中の女性がざ瘡治療のためにイソトレチノイン(ビタミンAと関係のある物質)の投与を受けると,子に先天異常が発生することがある。ビタミンAの大量投与は肝毒性を引き起こす可能性がある。

カロテンは体内でビタミンAに変換されるが,カロテンの過剰摂取は,ビタミンA中毒ではなく,カロテン血症を引き起こす。カロテン血症は通常は無症状であるが,柑皮症に至ることがあり,皮膚が黄変する。

ビタミンA中毒の症状と徴候

ビタミンA中毒の症状は様々であるが,急性または慢性中毒時には通常,頭痛および発疹が発生する。

急性中毒は頭蓋内圧亢進を引き起こす。眠気,易刺激性,腹痛,悪心,および嘔吐がよくみられる。ときに皮膚の剥離が続発する。

慢性中毒の初期症状は,粗造な毛髪,眉毛の脱毛,乾燥して荒れた皮膚,ドライアイ,およびひび割れた唇である。その後,重度の頭痛,特発性頭蓋内圧亢進症(偽脳腫瘍),および全身性の筋力低下が生じる。皮質骨増殖症および関節痛が起こることがあり,特に小児によくみられる。骨折が容易に起こることがあり,特に高齢者によく起こる。小児では,中毒により,そう痒,食欲不振,および発育不良が起こることがある。肝腫大および脾腫が起こることがある。

柑皮症では,皮膚(強膜ではなく)が濃黄色になり,特に手掌および足底によくみられる。

ビタミンA中毒の診断

  • 臨床的評価

ビタミンA中毒の診断は臨床的に行う。ビタミンの血中濃度は,中毒とはあまり相関しない。しかし,臨床診断の判断が難しい場合は,臨床検査が役立つことがある。ビタミンA中毒では,空腹時血清レチノール値は,正常値(28~86μg/dL[1~3μmol/L」)から100μg/dL(3.49μmol/L)を超える値に上昇し,ときに2000μg/dL(69.8μmol/L)を超える。高カルシウム血症がよくみられる。

ビタミンA中毒と他の疾患との鑑別は困難なことがある。柑皮症は重症の甲状腺機能低下症や神経性やせ症でも起こることがあるが,これはカロテンがより緩徐にビタミンAに変換されるためである可能性がある。

ビタミンA中毒の予後

ビタミンAの摂取をやめれば,通常は完全に回復する。慢性中毒の症状と徴候は,通常1~4週間で消失する。しかし,ビタミンAを大量に服用した母親の胎児の先天異常は,不可逆性である。

ビタミンA中毒の治療

ビタミンAを中止する。

要点

  • ビタミンA中毒は,高用量のビタミンAを摂取することによって,急性に(通常は小児の誤飲)または慢性に(例,大量ビタミン投与療法または皮膚疾患の治療として)引き起こされることがある。

  • 急性中毒により,発疹,腹痛,頭蓋内圧亢進,および嘔吐が起こる。

  • 慢性中毒により,発疹,頭蓋内圧亢進,まばらで荒れた毛髪,乾燥して荒れた皮膚,および関節痛が起こる;骨折のリスクが増大する(特に高齢者で)。

  • 臨床所見に基づいて診断する。

  • ビタミンAを中止すれば,症状(先天異常を除く)は通常1~4週間以内に消失する。

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