視神経脊髄炎スペクトラム障害は,主に眼および脊髄を侵す脱髄疾患であるが,アクアポリン4が含まれる中枢神経系の他の構造も侵す可能性がある。
(脱髄疾患の概要も参照のこと。)
視神経脊髄炎スペクトラム障害では,ときに両側性となる急性視神経炎に加えて,頸髄または胸髄の脱髄が生じる。以前は多発性硬化症(MS)の亜型と考えられていたが,現在では独立した別の疾患と認識されている。
視神経脊髄炎スペクトラム障害では,脳や特に脊髄および視神経の星細胞上に発現するタンパク質であるアクアポリン4や,中枢神経系の同じ領域にある乏突起膠細胞のミエリン上に発現しているミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)のほか,ときにはその他の標的が免疫系による攻撃を受ける。星細胞および乏突起膠細胞は自己免疫性の炎症と脱髄によって損傷を受ける。
視神経脊髄炎スペクトラム障害には3つの病型がある:
アクアポリン4抗体陽性(かつてはNMO抗体陽性と呼ばれていた)
ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質(MOG)陽性
二重抗体陰性(この病型の患者は臨床的な視神経脊髄炎スペクトラム障害を呈するが,どちらの抗体も発現していない)
NMOSDの症状と徴候
視神経脊髄炎スペクトラム障害の症状としては,視力障害,筋攣縮,対麻痺または四肢麻痺,失禁などがある。
特異的かつ特徴的な臨床像として以下のものがある:
視交叉を侵す重度の両側性視神経炎:視野の上下半分の視力障害(水平性視野欠損)または視力低下(20/200以下)
完全な脊髄症候群:特に強直痙攣発作を伴うもの
最後野症候群:難治性の吃逆または悪心および嘔吐を引き起こす(最後野は嘔吐を制御する部位であり,第4脳室床に位置する)
3つ以上の隣接する髄節に及ぶ急性横断性脊髄炎
NMOSDの診断
脳および脊髄MRI
視覚誘発電位
視神経脊髄炎スペクトラム障害の診断では通常,脳および脊髄MRIと視覚誘発電位検査を行う(1)。
以下の特徴は視神経脊髄炎を多発性硬化症(MS)と鑑別するのに役立つ:
MSでは典型的には1つの髄節が侵されるのに対し,視神経脊髄炎ではいくつか(典型的には3つ以上)の隣接する髄節が侵される。
MSとは異なり,視神経脊髄炎ではMRIで白質病変を認めるのまれである。
MRIでの病変の形態および分布がMSと異なる。
視覚誘発電位は,視神経脊髄炎を他の視神経症と鑑別するのに役立つ。視神経脊髄炎スペクトラム障害の所見としては,振幅の低下や潜時の延長などがある。この検査は,発症前に臨床的に明らかでない損傷を検出するのにも有用である。
MSとの鑑別を目的として,視神経脊髄炎スペクトラム障害に特異的なIgG抗体(アクアポリン4抗体[NMO-IgGとしても知られる])を測定する血液検査を行うこともある。抗MOG(ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質)抗体により,視神経脊髄炎スペクトラム障害患者の一部を同定することができ,この抗体をもつ患者はアクアポリン4抗体をもつ患者やいずれの抗体ももたない患者と比べて臨床的特徴が異なり,増悪が少なく,回復が良好と考えられている。視神経脊髄炎スペクトラム障害の臨床所見がある患者の一部は,いずれの抗体も認められず,二重抗体陰性(double antibody negative)視神経脊髄炎スペクトラム障害に分類される。
診断に関する参考文献
1.Wingerchuk DM, Banwell B, Bennett JL, et al: International consensus diagnostic criteria for neuromyelitis optica spectrum disorders.Neurology 85 (2):177–189, 2015.doi: 10.1212/WNL.0000000000001729 Epub 2015 Jun 19
NMOSDの治療
コルチコステロイドおよび免疫調節薬または免疫抑制療法
視神経脊髄炎に根治的な治療法はない。しかしながら,治療を行うことで増悪を予防ないし遅らせたり,重症度を軽減したりすることが可能であり,短期的に身体障害のリスクを低減できる場合もある(1, 2)。
C5阻害薬であるエクリズマブは,アクアポリン4抗体陽性の視神経脊髄炎スペクトラム障害に対する治療に使用できる。有害作用には呼吸器感染症,頭痛,肺炎などがあり,重大となる場合があるため,注意深く患者をモニタリングすべきである(3)。髄膜炎菌性敗血症を発症した患者が1例報告されているため,治療を開始する前に髄膜炎菌に対するワクチン接種が必要である。
最近,サトラリズマブ(インターロイキン6受容体を標的とするモノクローナル抗体)およびイネビリズマブ(B細胞上のCD19を標的とするモノクローナル抗体)もアクアポリン4抗体陽性の視神経脊髄炎スペクトラム障害に対する治療に使用できる。尿路感染症や呼吸器感染症などの感染症について注意深くモニタリングすべきである。
メチルプレドニゾロンとアザチオプリンがしばしば併用される。コルチコステロイドで反応が得られない場合は,血漿交換が有用となりうる。
抗B細胞抗体であるリツキシマブは,ある二重盲検プラセボ対照試験で再発を減少させることが示されている(4)。ときに他の免疫調節療法および免疫抑制療法が用いられる。
ナタリズマブおよびフィンゴリモドは無効とみられ,有害である可能性がある。
症状に対する治療はMSの場合と同様である。バクロフェンまたはチザニジンで筋攣縮を軽減できる可能性がある。
治療に関する参考文献
1.Kong F, Wang J, Zheng H, et al: Monoclonal antibody therapy in neuromyelitis optica spectrum disorders: A meta-analysis of randomized control trials.Front Pharmacol 20;12:652759, 2021. doi: 10.3389/fphar.2021.652759
2.Xue T, Yang Y, Lu Q, et al: Efficacy and safety of monoclonal antibody therapy in neuromyelitis optica spectrum disorders: Evidence from randomized controlled trials.Mult Scler Relat Disord 43:102166, 2020. doi: 10.1016/j.msard.2020.102166 Epub 2020 May 11.
3.Pittock SJ, Berthele A, Fujihara K, et al: Eculizumab in aquaporin-4-positive neuromyelitis optica spectrum disorder.N Engl J Med 381 (7):614–625, 2019.doi: 10.1056/NEJMoa1900866 Epub 2019 May 3
4.Tahara M, Oeda T, Okada K, et al: Safety and efficacy of rituximab in neuromyelitis optica spectrum disorders (RIN-1 study): A multicentre, randomised, double-blind, placebo-controlled trial.Lancet Neurol 19 (4):298–306, 2020.doi: 10.1016/S1474-4422(20)30066-1
要点
視神経脊髄炎スペクトラム障害は脱髄を引き起こし,典型的には抗アクアポリン4抗体または抗MOG(ミエリンオリゴデンドロサイト糖タンパク質)抗体が陽性である。
典型的な症状としては,視力障害,筋攣縮,対麻痺または四肢麻痺,失禁などがある。
視神経脊髄炎スペクトラム障害は,脳および脊髄MRIと視覚誘発電位検査により診断する。
治療には,コルチコステロイドおよび免疫調節薬または免疫抑制療法などがある(例,エクリズマブ,リツキシマブ)。