慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチーは,近位筋および遠位筋の左右対称性筋力低下と2カ月以上持続する病勢の進行を特徴とする,免疫介在性の多発神経障害である。
(末梢神経系疾患の概要も参照のこと。)
慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー(CIDP)の症状はギラン-バレー症候群のものに似ている。しかしながら,2カ月を超える病勢の進行はCIDPとギラン-バレー症候群との鑑別点であり,後者は単相性で自然治癒する。当初ギラン-バレー症候群と診断された患者の2~5%でCIDPが発生する。
原因は脱髄につながる自己免疫と考えられている。
CIDPの症状と徴候
CIDPの典型的な症例は,潜行性に始まり,徐々に悪化するか再発と回復を繰り返す;再発と再発の間の回復の程度は部分的なこともあれば完全なこともある。大半の患者では弛緩性の筋力低下(通常は四肢にみられる)が優勢である;典型的には,弛緩性筋力低下が感覚異常(例,手足の錯感覚)よりも著明である。深部腱反射は消失する。
多くの場合,自律神経機能の障害はギラン-バレー症候群より軽度である。また,筋力低下は左右非対称性でギラン-バレー症候群より進行が緩徐である。
CIDPの診断
髄液検査および電気診断検査
検査には髄液検査や電気診断検査などがある。検査結果はギラン-バレー症候群の場合と類似しており,タンパク細胞解離(タンパク質が増加するにもかかわらず白血球数は正常値)および電気診断検査で認められる脱髄などがある。
神経生検でも脱髄を検出できるが,必要になることはまれである。
CIDPの治療
免疫グロブリン静注療法(IVIG)
コルチコステロイド
血漿交換
IVIGは費用が高いものの,以下の理由から,慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチーの患者にしばしば最初に勧められる:
コルチコステロイドの長期使用でみられる多くの有害作用がない。
血漿交換より投与が容易である。
ただし,最近のエビデンスからは,IVIGよりもステロイドパルス療法の方が寛解期間が長く,重篤な有害作用の発生率が低いことが示唆されている。ステロイドパルス療法は以下のように行う:
デキサメタゾンを40mg,経口,1日1回,連続4日間を月1回,6サイクル
デキサメタゾンを経口,週1回,3カ月間,用量は患者の臨床状態に基づき毎月調節
静注用メチルプレドニゾロンを500mg,1日1回,連続4日間を月1回,6カ月間
一部の患者では,IVIGとコルチコステロイドの併用が有益となる。
血漿交換でもコルチコステロイドの長期有害作用はないが,しばしばポートの留置が必要になり,また体液量の変化が激しいため,低血圧を引き起こすことがある。IVIGに反応しない患者や重症患者には血漿交換を勧めてもよいが,血漿交換は侵襲的でリスクがあるため,長期の維持療法としてではなく,重度の増悪を緩和する手段として用いるのが最善である。
皮下注用免疫グロブリン製剤(SCIG)はIVIGと同等の効果がある。
免疫抑制薬(例,アザチオプリン)が役立ち,コルチコステロイドへの依存を軽減しうる。
長期間の治療が必要になることがある。
要点
慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチーの症状はギラン-バレー症候群の症状に似ているが,両者は症状が進行する期間(CIDPでは2カ月以上)に基づいて鑑別できる。
症状は潜行性に始まり,徐々に悪化するか再発と回復を繰り返す。
髄液検査と電気診断検査の結果はギラン-バレー症候群のそれに似ている。
IVIGおよびコルチコステロイドで治療するが,重症例では血漿交換を考慮する;免疫抑制薬が有用な場合があり,コルチコステロイドへの依存を軽減しうる。