腫瘍は,隣接する骨または軟部組織の腫瘍が直接進展しない限り,めったに関節を侵さない。しかし,2つの病態(滑膜軟骨腫症および腱滑膜巨細胞腫[色素性絨毛結節性滑膜炎])が関節の内壁(滑膜)に発生する。これらの病態は良性であるが,局所浸潤性である。両方とも通常1つの関節(膝関節が最も多く次いで股関節が多い)を侵し,痛みおよび液貯留を引き起こすことがある。両方とも直視下の滑膜切除術により治療し,滑膜軟骨腫症は関節内の腫瘤および化生性の滑膜の除去により治療する。
滑膜肉腫と呼ばれる悪性の軟部組織腫瘍があり,様々な種類の軟部組織に発生するが,滑膜由来ではなく,関節内に起こることはめったにない。特異的なSS18-SSX/1/2/4融合遺伝子を特徴とし,様々な程度の上皮分化を示す単形性で紡錘細胞型の悪性軟部組織腫瘍であるが,紡錘細胞成分と腺様成分が混在する二相性を示すことも多い。何十年も前に腫瘍に対して「滑膜」という用語が用いられたが,これは誤った名称である。
(骨と関節の腫瘍の概要も参照のこと。)
滑膜軟骨腫症
滑膜軟骨腫症(以前は滑膜骨軟骨腫症と呼ばれた)は滑膜に化生が生じる病態と考えられている。滑膜における多数の石灰化した軟骨性の遊離体を特徴とする。腫脹し痛みを伴う関節内で,それぞれの遊離体は米粒と同程度に小さい場合がある。悪性転化は非常にまれである。再発がよくみられる。
滑膜軟骨腫症の診断は画像検査(通常はCTまたはMRI)による。
Image courtesy of Michael J. Joyce, MD, and Hakan Ilaslan, MD.
滑膜軟骨腫症の治療は対症療法によることがあるが,機械的症状が顕著な場合は,関節鏡視下または直視下で遊離体または滑膜の除去が必要である。
腱滑膜巨細胞腫
腱滑膜巨細胞腫(以前は色素性絨毛結節性滑膜炎と呼ばれた)は,滑膜の良性腫瘍と考えられており,関節内だけでなく関節周囲にも生じることがある。本腫瘍は,手,足,膝の小関節に結節性に生じる(限局する)こともあれば,膝関節や股関節などの大関節にびまん性に生じることもある(より一般的)。腫瘍が腱を侵す場合は,腱鞘巨細胞腫と呼ばれる。滑膜が肥厚してヘモジデリンを含み,それにより組織が血液で染色されたように見え,MRI上で特徴的な様相を呈する。この組織は隣接した骨に侵入する傾向があり,軟骨に嚢胞性の破壊と損傷を起こす。腱滑膜巨細胞腫は通常,単関節性であるが多関節性のこともある。
腫瘍は,増殖因子のCSF-1(コロニー刺激因子1)を過剰発現する腫瘍性の滑膜細胞から生じる。腫瘍は典型的には,少数のこれらの細胞と,高い割合のCSF-1受容体(CSF-1R)を有する骨髄系前駆細胞(単球およびマクロファージ)から構成される。CSF-1はその骨髄系前駆細胞の増殖を刺激する。
びまん型腱滑膜巨細胞腫は局所再発率が高く,しばしばさらなる手術および合併症につながる。標準治療は滑膜切除術による完全な切除である。到達可能な関節の比較的小さな病変は,関節全体に播種するリスクがいくらかあるものの,関節鏡視下切除術により治療することがある。より完全な切除には通常,直視下の関節切開が必要となる。腫瘍は関節包の内部と外部の両方に存在することがあり,これは特に膝窩部が侵されている場合に多い。
経口薬であるペキシダルチニブは,手術による改善が得られない重度の合併症または機能制限を引き起こしている症候性の腱滑膜巨細胞腫の治療に用いられる。この薬剤は,単球,マクロファージ,および破骨細胞に発現しているCSF-1Rに結合することにより,腫瘍の増殖を阻止するのに役立つ。有害作用としては肝炎や肝不全などがある。ペキシダルチニブの役割は進化しつつある(1)。米国の添付文書には,重篤および致死的となりうる肝損傷のリスクに関する囲み警告(boxed warning)が記載されている。ペキシダルチニブは米国では製造業者のRisk Evaluation and Mitigation Strategy Programを介して,がんセンターでのみ入手可能である。
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腱滑膜巨細胞腫のその後の管理(特に再発後)に人工関節全置換術が必要になることがある。まれに数回の滑膜切除術の後,ときに放射線療法を用いることがある。
参考文献
1.Gelderblom H, Wagner AJ, Tap WD, et al: Long-term outcomes of pexidartinib in tenosynovial giant cell tumors.Cancer 15;127(6):884-893, 2021.doi: 10.1002/cncr.33312.Epub 2020 Nov 16.PMID: 33197285; PMCID: PMC7946703.