潰瘍性大腸炎

執筆者:Aaron E. Walfish, MD, Mount Sinai Medical Center;
Rafael Antonio Ching Companioni, MD, HCA Florida Gulf Coast Hospital
レビュー/改訂 2023年 11月
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潰瘍性大腸炎は,大腸粘膜を侵す炎症性かつ潰瘍性の慢性疾患で,ほとんどの場合に血性下痢を特徴とする。腸管外合併症が発生することがあり,特に関節炎がよくみられる。結腸癌の長期リスクが非罹患者と比較して高くなる。診断は大腸内視鏡検査による。治療はメサラジン,コルチコステロイド,免疫調節薬,生物学的製剤,および抗菌薬のほか,ときに手術である。

炎症性腸疾患の概要も参照のこと。)

潰瘍性大腸炎の病態生理

潰瘍性大腸炎は通常,直腸から始まる。直腸に限局することもあれば(潰瘍性直腸炎),口側に進展して,ときに結腸全体を侵すこともある。まれに,大腸の大部分が一度に侵される。

潰瘍性大腸炎による炎症は,粘膜および粘膜下層を侵し,正常組織と罹患組織の間に明瞭な境界がみられる。筋層は重症例でのみ侵される。疾患の初期では,粘膜は紅斑性,微細顆粒状でもろく,正常な血管パターンを欠き,しばしば出血部が散在している。重症例は,粘膜の大きな潰瘍およびそれに伴う大量の化膿性滲出液を特徴とする。比較的正常または過形成が起きた炎症性粘膜の島(偽ポリープ)が潰瘍化した粘膜の領域上で突出する。瘻孔や膿瘍は発生しない。

潰瘍性大腸炎
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潰瘍性大腸炎の大腸内視鏡所見として,浮腫,血管の減少,脆弱な粘膜,潰瘍などが認められる。
Photo courtesy of Drs.Aaron E.Walfish and Rafael A.Ching Companioni.
偽ポリープ
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偽ポリープは,粘膜面の上に突出した過形成性の炎症を起こした粘膜領域である。
Photo courtesy of Drs.Aaron E.Walfish and Rafael A.Ching Companioni.

中毒性大腸炎(toxic colitis)

潰瘍が腸壁全層に及び,それにより限局性イレウスおよび腹膜炎がもたらされた場合,中毒性大腸炎(toxic colitis)または劇症大腸炎(fulminant colitis)が発生する。数時間から数日以内に結腸は筋緊張を失い,拡張し始める。

中毒性炎症状態およびその合併症は明らかな巨大結腸(増悪時に横行結腸の直径が6cmを超えるものと定義)がなくても起こりうるため,中毒性巨大結腸症および中毒性拡張という用語は推奨されない。

中毒性大腸炎は通常,非常に重度の大腸炎の経過中に自然に発生する救急疾患であるが,ときにオピオイドまたは抗コリン性止瀉薬によって引き起こされることもある。大腸穿孔が起こることがあり,その結果,死亡率が有意に上昇する。

潰瘍性大腸炎の症状と徴候

典型的には以下の症状がみられる:

  • 血性下痢が様々な程度と持続期間で繰り返しみられ,その間には無症状の期間がある。

通常,疾患は潜行性に始まり,便意切迫の増加,軽度の下腹部痙攣,粘血便を伴う。一部の症例は感染(例,アメーバ症,細菌性赤痢)後に発生する。

潰瘍形成が直腸S状結腸に限局している場合,便は正常便または乾燥した硬便であるが,排便時または排便と排便の間に,赤血球および白血球を多量に含む粘液の直腸分泌物が認められる。全身症状は認められないか軽度である。

潰瘍が口側に及ぶと,便は軟化し,排便回数は10回/日を超えることがあり,しばしば重度の痙攣と苦痛な直腸のしぶり腹を伴い,夜通し続く。便は水様便または粘液便で,しばしばほぼ完全に血液および膿で構成されることがある。

中毒性または劇症大腸炎は,初期には突然の激しい下痢,40℃(104°F)の発熱,腹痛,腹膜炎の徴候(例,反跳痛),および重度の毒素血症を呈する。

全身的な症候(広範な潰瘍性大腸炎で多くみられる)としては,倦怠感,発熱,貧血,食欲不振,体重減少などがある。炎症性腸疾患(IBD)の腸管外合併症(特に関節および皮膚の合併症)は,全身症状がある場合に最も多くみられる。

潰瘍性大腸炎の診断

  • 便培養および鏡検(感染性の原因を除外するため)

  • S状結腸鏡検査と生検

初発症状

潰瘍性大腸炎の診断は,典型的な症状と徴候から示唆され,特に腸管外合併症または類似した発作の既往がある場合には強く示唆される。潰瘍性大腸炎はクローン病クローン病と潰瘍性大腸炎の鑑別の表を参照)と鑑別すべきであるが,より重要なこととして,急性大腸炎の他の原因(例,感染,高齢患者では虚血)と鑑別すべきである。

全ての患者において,腸内病原体に対する便培養を行うべきであり,新鮮便検体の検査により赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)を除外すべきである。疫学的な病歴または旅行歴からアメーバ症が疑われる場合は,血清抗体価の測定と生検を行うべきである。抗菌薬の以前の使用または最近の入院の既往があれば,Clostridioides difficile(かつてのClostridium difficile)毒素の便検査を行うべきである。リスクのある患者ではHIV,淋菌感染症,ヘルペスウイルス,クラミジア,およびアメーバ症の検査を行うべきである。免疫抑制患者では,日和見感染(例,サイトメガロウイルス,Mycobacterium avium-intracellulare)またはカポジ肉腫についても考慮する必要がある。経口避妊薬を使用している女性では,避妊薬起因性大腸炎の可能性があり,これは通常ホルモン療法中止後に自然に消失する。ラクトフェリンおよび便中カルプロテクチンの便検査は,IBDを機能性下痢と鑑別するのに有益となりうる。

S状結腸鏡検査を行うべきであり,これによって,大腸炎を視覚的に確認できるとともに,培養および鏡検のための便または粘液検体を直接採取するだけでなく,病変部の生検が可能である。異なる種類の大腸炎の間で外観にかなりの重複があるため,視診および生検はともに診断の決め手とはならないことがあるが,自然に消退する急性感染性大腸炎は通常,慢性で特発性の潰瘍性大腸炎または大腸クローン病とは組織学的に鑑別可能である。重度の肛門周囲病変,直腸が侵されていないこと,出血がないこと,結腸の非対称性または分節性病変は,潰瘍性大腸炎ではなくクローン病を示唆する。大腸内視鏡検査は通常,初期には不要であるが,炎症がS状結腸鏡で到達可能な範囲より口側に及んでいる場合は,待機的に行うべきである。

貧血,低アルブミン血症,および電解質異常をスクリーニングするため,臨床検査を行うべきである。肝機能検査を行うべきで,アルカリホスファターゼおよびγ-グルタミルトランスペプチダーゼ値の上昇は,原発性硬化性胆管炎の可能性を示唆する。核周囲型抗好中球細胞質抗体は潰瘍性大腸炎に対して比較的特異的である(60~70%)。抗Saccharomyces cerevisiae抗体はクローン病に比較的特異的である。しかしながら,これらの検査は2つの疾患を確実に鑑別できる方法ではなく,ルーチンの診断法として推奨されない。そのほかにありうる臨床検査値異常として,白血球増多,血小板増多,および急性期反応物質(例,赤沈,CRP)の上昇がある。

X線では診断はできないが,ときに異常を検出できる。腹部単純X線は,病変部腸管に粘膜浮腫,ハウストラの消失,および有形便の欠如が示されることがあるが,その頻度は低く,ルーチンには推奨されない。下部消化管造影は同様の変化をより明確に示し,また潰瘍を示すこともあるが,急性期には下部消化管造影を施行すべきではない。発症から数年後には,粘膜の萎縮や偽ポリープを伴う短縮硬化した結腸がしばしば認められる。母指圧痕像および区域性分布のX線所見は,潰瘍性大腸炎ではなく腸管虚血またはおそらく大腸クローン病を示唆している可能性が高い。

再発症状

罹患が既知であり典型的な症状の再発を呈する患者は検査を行うべきであるが,広範囲の検査は必ずしも必要ではない。症状の持続期間および重症度に応じて,S状結腸鏡検査または大腸内視鏡検査および血算を行ってもよい。再発に非典型的な特徴がある場合,または増悪の発生が長期寛解後,感染性疾患のアウトブレイク時,抗菌薬曝露後の場合,または臨床医が疑いを抱いたときは常に,培養,寄生虫卵検査,およびC. difficile毒素の検査を行うべきである。

重度の急性発作

重度の急性増悪(flare-up)時には,患者を直ちに入院させる必要がある。臥位および立位腹部X線検査を行うべきであり,検査では筋緊張消失の結果である巨大結腸症または結腸の長く連続的な麻痺部分に蓄積した腔内ガスを認めることがある。下部消化管造影は,穿孔のリスクがあるため避けるべきであるが,一般的には重症度を評価し感染を除外するために入念なS状結腸鏡検査を行うことが望ましい。血算,血小板数,赤沈,CRP,電解質,およびアルブミンの検査を行うべきであり,重度の出血を起こした症例ではプロトロンビン時間,部分トロンボプラスチン時間,および血液型検査と交差適合試験も行うべきである。

進行性の腹膜炎または穿孔がないか,注意深く経過を観察する必要がある。肝濁音界の消失は遊離穿孔の最初の臨床徴候であることがあるため,肝臓の打診は重要であり,特に高用量のコルチコステロイドによって腹膜刺激徴候が抑制されている患者では重要である。腹部X線検査を1~2日毎に行い,結腸拡張の経過を観察し,遊離ガスまたは壁内ガスを検出する;壁外ガスと結腸周囲膿瘍の検出にはCTの方が高感度である。

パール&ピットフォール

  • 潰瘍性大腸炎の重度の増悪では,穿孔のリスクがあるため下部消化管造影は避けること。

潰瘍性大腸炎の治療

  • 症状緩和のための食事管理およびロペラミド(重度の急性発作を除く)

  • メサラジン(5-ASA)

  • 症状および重症度に応じてコルチコステロイドおよび他の薬剤

  • 代謝拮抗薬,生物学的製剤,ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬,またはスフィンゴシン1-リン酸(S1P)受容体調節薬

  • ときに手術

具体的な薬剤および用法・用量の詳細については,炎症性腸疾患に対する薬剤で考察されている。(American College of Gastroenterologyが2019に公開した成人における潰瘍性大腸炎の管理に関するガイドラインも参照のこと。)

一般的な管理

生の果物や野菜を避けることによって,大腸の炎症粘膜の外傷が抑えられ,症状が緩和する場合がある。牛乳を含まない食事が助けとなる可能性があるが,効果がみられなければ,継続する必要はない。比較的軽度の下痢にはロペラミド2mg,経口,1日2回~1日4回が適応となり,より激しい下痢にはより高用量の経口投与(朝に4mg,および毎回の排便後に2mg【訳注:本用量は日本の投与量とは異なるので要注意】)が必要になる場合がある。重症例に対して止瀉薬を使用する際には,中毒性大腸拡張症を起こす恐れがあるため,細心の注意を払う必要がある。炎症性腸疾患の全ての患者にカルシウムおよびビタミンDを適切な量で摂取するよう指導すべきである。

ルーチンの健康維持対策(例,予防接種,がんスクリーニング)を重視すべきである。

軽度の左側大腸炎型

直腸に限局した軽度から中等度の潰瘍性大腸炎患者と病変がS状結腸より口側に進展していない直腸S状結腸炎の患者には,5-ASA(メサラジン)を重症度に応じて1日1回または1日2回の頻度で注腸投与する。坐薬は病変がより遠位にある患者に効果的であり,通常は患者が好んで選択する。コルチコステロイドおよびブデソニド注腸はやや効果が劣るが,5-ASAが成功しない場合または耐容されない場合に使用すべきである。寛解が得られたら,用量を維持量まで徐々に漸減する。5-ASAの経口剤は,理論的には,病変が口側に進展する可能性を低下させるという点で,いくらかの付加的な便益をもたらす。

中等症または進展例

S状結腸より口側に炎症がみられる患者と局所用薬剤に反応しない左側大腸炎型の患者には,生物学的製剤(インフリキシマブ,アダリムマブ,ゴリムマブ,ウステキヌマブ,ベドリズマブ)を,場合により免疫調節薬(アザチオプリンまたは6-メルカプトプリン)と併用で投与すべきである。中等症から重症の潰瘍性大腸炎患者では,ときに寛解導入のために高用量のコルチコステロイドが追加されることがある。ときに免疫調節薬とTNF阻害薬の併用が役立つことがある。最後に,一部の患者では,ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬(トファシチニブまたはウパダシチニブ)またはスフィンゴシン1-リン酸(S1P)受容体調節薬オザニモドの試験的投与を考慮することができる。

重症例

1日10回を超える血便,頻脈,高熱,または重度の腹痛がある患者は,生物学的製剤および/または高用量の静注コルチコステロイドの投与を受けるために入院を必要とする。脱水および貧血に対して,必要に応じて輸液および輸血を行う。中毒性大腸炎の発症について患者を注意深く観察する必要がある。ときに栄養サポートのために静脈栄養法が用いられるが,根本的な治療法としての価値はなく,食物を経口摂取できる患者にはそうさせるべきである。

生物学的製剤および/またはコルチコステロイドに3~7日以内に反応しない患者には,静注シクロスポリンまたは手術を考慮すべきである。コルチコステロイドのレジメンで反応が得られた患者では,1週間程度でプレドニゾン40mg,経口,1日1回に切り替え,臨床反応に基づいて在宅で漸減させてもよい。静注シクロスポリンを開始し,治療に反応する患者は,経口シクロスポリンとアザチオプリンまたは6-メルカプトプリンの併用へ投薬を切り替える。経口シクロスポリンは約3~4カ月間継続し,その間にコルチコステロイドを減量し,シクロスポリン値を綿密にモニタリングする。コルチコステロイド,シクロスポリン,および代謝拮抗薬による重複治療中には,Pneumocystis jirovecii肺炎に対する予防を推奨する臨床医もいる。移植患者にも使用される免疫抑制薬のタクロリムスは,シクロスポリンと同等に効果的とみられ,入院を必要としない重症または難治性の潰瘍性大腸炎患者への使用を考慮してもよい。血中トラフ濃度を10~15ng/mL(12~25nmol/L)に維持すべきである。

劇症大腸炎(fulminant colitis)

劇症大腸炎または中毒性大腸炎が疑われる場合は,以下のことを行うべきである:

  1. 全ての止瀉薬を中止する

  2. 絶食とし,長いイレウス管を挿入して間欠的に吸引する

  3. 積極的な輸液と0.9%塩化ナトリウム溶液による電解質療法を行い,必要に応じて塩化カリウムの投与と輸血を行う

  4. 高用量の静注コルチコステロイドまたはシクロスポリンを投与する

  5. 抗菌薬を投与する(例,メトロニダゾール500mg,静注,8時間毎【訳注:メトロニダゾール500mgは日本では2回】およびシプロフロキサシン500mg【訳注:日本では400mg】,静注,12時間毎)

  6. 場合によりインフリキシマブを投与する

2~3時間毎に仰臥位から腹臥位に体位変換を行うことが,大腸ガスの再分布および進行性の腹部膨隆の予防に役立つことがある。柔軟な直腸管の挿入も助けになることがあるが,腸穿孔を避けるために細心の注意を払う必要がある。拡張した結腸の減圧が得られた場合でも,基礎にある炎症過程がコントロールされない限り患者は危機を脱したわけではなく,コントロールされない場合は,結腸切除術が依然として必要となる。

内科的集中治療で24~48時間以内に明らかな改善がみられない場合には,直ちに外科的手術を行う必要があり,さもなければ,患者は細菌移行または穿孔に起因する敗血症で死亡する可能性がある。

維持療法

急性増悪が効果的に治療された後には,コルチコステロイドを臨床反応に基づいて漸減し,同薬剤には維持療法としての効果がないため,その後中止する。維持療法の中止によってしばしば疾患が再発するため,患者は5-ASA薬(病変部位に応じて,経口または経直腸投与)を無期限に継続すべきである。直腸内投与製剤の投与間隔は,徐々に延長して2日毎または3日毎とすることができる。経口および経直腸経路の併用は,それぞれの治療単独よりも有意に効果的であることを示した十分なエビデンスが得られている。

コルチコステロイドを中止できない患者には,チオプリン系薬剤(アザチオプリンまたは6-メルカプトプリン),メトトレキサート,生物学的製剤,ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬,またはスフィンゴシン1-リン酸(S1P)受容体調節薬オザニモドを単独または併用で投与すべきである。

導入療法としてインフリキシマブの投与を開始した患者は,維持療法としてもこの薬剤を継続すべきである。

手術

広範な潰瘍性大腸炎を有する患者の3分の1近くが最終的に手術を必要とする。大腸全摘術により治癒が得られ,期待余命は正常の水準に戻り,結腸癌のリスクは有意に低減する。しかしながら,最大25%の患者でその後にクローン病と合致する炎症が小腸粘膜に発生すると報告している研究もあり(1, 2),これは術後何年も経過してから起こる可能性がある。回腸嚢肛門吻合術(IPAA)を伴う大腸全摘後には,直腸断端肛門移行部とさらには回腸嚢内において異形成またはがんのリスクがわずかに残る。回腸瘻造設術またはIPAAを伴う大腸切除後には,生活の質が改善するものの,生活面で新たな課題が生じる。

大量出血,劇症の中毒性大腸炎,および穿孔は,緊急結腸切除術の適応である。回腸瘻造設術と直腸S状結腸閉鎖(Hartmann手術)または粘液瘻造設術を伴う結腸亜全摘術が通常は第1選択の術式であり,これは,大半の重症患者がより広範囲の手術には耐えられないためである。直腸S状結腸断端は後日,待機的に切除するか,または回腸嚢作製を伴う回腸肛門吻合術に用いることができる。無処置の直腸断端は,疾患の活動化と悪性化のリスクがあるため,無期限に残しておくべきではない。

がん,症候性狭窄,小児の発育遅滞,または最も一般的には,廃疾またはステロイド依存症をもたらす難治性慢性疾患は,待機手術の適応である。大腸炎に関連した重度の腸管外合併症(例,壊疽性膿皮症)は,現在では集中的な内科的治療により良好にコントロール可能であり,手術適応はまれにしかみられない。

正常な括約筋機能を有する患者に対する第1選択の待機的手技は,回腸肛門吻合術を併施する肛門温存大腸切除術である。この手技では遠位回腸から骨盤内リザーバーまたは回腸嚢を作製し,肛門に吻合する。無傷の括約筋は排便の随意調節が可能であり,排便回数は典型的には1日4~9回(夜間の1回ないし2回を含む)である。

回腸嚢炎は,IPAAを伴う肛門温存大腸切除術を受けた患者の約50%で発生する炎症反応である。回腸嚢炎のリスクは,原発性硬化性胆管炎の患者と術前に腸管外合併症がみられる患者で高いようであるほか,核周囲型抗好中球抗体の血清抗体価や炎症性腸疾患の他のバイオマーカーの測定値が高い患者でもリスクが高い可能性がある。回腸嚢炎は,腸内細菌の異常増殖が関連していると考えられ,抗菌薬(例,キノロン系)で治療する。プロバイオティクスは予防的な可能性がある。回腸嚢炎症例の大半は容易にコントロールできるが,5~10%は全ての薬物療法に抵抗性を示し,従来法の(Brooke)回腸瘻造設術への変更が必要となる。高齢患者,しっかりとした家族および生活習慣をもつ患者,括約筋の緊張が不良または頻回の排便に耐えられない患者,頻回または慢性の回腸嚢炎の結果に単に向き合えない,あるいは向き合う気のない患者などの少数の患者では,Brooke回腸瘻造設術が依然として第1選択の手技である。

回腸嚢肛門吻合術(IPAA)またはend ileostomy術後の回腸炎は,他の病型のIBDと同様に管理する。外科的手技が必要になることはまれである。

どのような場合でも,いずれの形態の結腸切除であれ,それによって引き起こされる身体的および感情的負担が認識される必要があり,手術前後に必要なあらゆる教育とあらゆる医学的および心理的サポートを患者が受けられるよう配慮すべきである。

治療に関する参考文献

  1. 1.Hercun J, Côté-Daigneault J, Lahaie RG, et al: Crohn's disease after proctocolectomy and IPAA for ulcerative colitis.Dis Colon Rectum 64(2):217–224, 2021. doi: 10.1097/DCR.0000000000001721

  2. 2.Shamah S, Schneider J, Korelitz BI: High incidence of recurrent Crohn's disease following colectomy for ulcerative colitis revealed with long follow-up.Dig Dis Sci 63(2):446–451, 2018. doi: 10.1007/s10620-017-4873-7

潰瘍性大腸炎の予後

通常,潰瘍性大腸炎は増悪と寛解を繰り返す慢性疾患である。一部の患者では,初回発作が大量出血,穿孔,または敗血症および毒素血症を伴って劇症化する。少数の患者では発作は1回のみであり,その後は完全に回復する。

予後は限局性の潰瘍性直腸炎を呈する患者で最も良好である。重度の全身症状,中毒性合併症,および悪性化が起こる可能性は低く,少数の患者でのみ疾患の後期進展が起こる。外科手術が必要になることはまれであり,期待余命は正常である。しかしながら,症状は頑固で難治性である可能性がある。さらに,広範な潰瘍性大腸炎は直腸から始まって口側に波及することがあるため,6カ月以上観察するまで直腸炎を限局性とみなしてはならない。時間経過後に進展する限局性疾患の方がしばしばより重症かつ治療抵抗性である。

結腸癌

結腸癌のリスクは,罹病期間と侵された結腸の量に比例するが,発作の臨床的重症度とは必ずしも比例しない。一部の研究では,持続する顕微鏡的炎症は危険因子であり,炎症をコントロールするためのメサラジン(5-ASA)の使用が防御因子であることが示唆されている。

IBDによる結腸癌のリスク上昇が複数の研究で指摘されている。より最近のデータでは,結腸癌の有病率は低下しており,三次医療機関での研究によって過大推定された可能性が示唆されている(1)。

炎症性腸疾患と原発性硬化性胆管炎を合併している患者は,大腸炎と診断された時点からがんのリスクが高くなっている。

罹病期間が8~10年以上の患者には,できれば寛解期に,定期的な大腸内視鏡検査によるサーベイランスが勧められ(ただし孤立性直腸炎の患者は除く),原発性硬化性胆管炎を併発した場合には,その診断時から大腸内視鏡検査によるサーベイランスを開始するべきである。ガイドライン(2)では,異形成の検出を試みる際に白色光による高解像度の大腸内視鏡検査を用いる場合はランダム生検(大腸全体から10cm間隔で採取する)の施行が勧められているが,色素内視鏡検査を用いる場合には視認可能な病変を標的とする狙撃生検のみを行うことが勧められている。大腸炎病変部の明らかな異形成は,異型度にかかわらず,より進行した腫瘍や場合によってはがんに進行する傾向がある。内視鏡下で切除可能なポリープ状または非ポリープ状の異形成病変を完全に除去した後は,大腸切除術よりも大腸内視鏡によるサーベイランスが勧められている。内視鏡下で視認できない異形成がある患者は,おそらくは,大腸切除術を行うべきか大腸内視鏡によるサーベイランスを継続するべきかについて,色素内視鏡検査および/または高解像度大腸内視鏡検査を用いて決定するIBDのサーベイランスに精通した消化器専門医に紹介するべきであろう。

大腸内視鏡検査によるサーベイランスの至適頻度は確立されていないが,一部の専門家は,発症から11~20年の間は2年毎,それ以降は毎年行うよう勧めている。

大腸炎関連がんの診断後の長期生存率は約50%で,この数字は一般集団における大腸癌での値と同程度である。

予後に関する参考文献

  1. 1.Stidham RW, Higgins PDR: Colorectal cancer in inflammatory bowel disease.Clin Colon Rectal Surg 31(3):168-178, 2018.doi: 10.1055/s-0037-1602237

  2. 2.Laine L, Kaltenbach T, Barkun A, et al: SCENIC international consensus statement on surveillance and management of dysplasia in inflammatory bowel disease.Gastroenterology 148(3):639-651.e28, 2015.doi: 10.1053/j.gastro.2015.01.031

要点

  • 潰瘍性大腸炎は直腸から始まるが,正常部分を残すことなく連続的に口側へ進展することがある。

  • 症状は,腹部痙攣および血性下痢の間欠的な発作である。

  • 合併症としては,穿孔につながることのある劇症大腸炎(fulminant colitis)があり,長期的には結腸癌のリスクが高まる。

  • 軽症例は5-ASAの経直腸投与で,病変が口側にある症例は経口投与で治療する。

  • 進行例には,高用量のコルチコステロイド,免疫調節療法(例,アザチオプリン,6-メルカプトプリン),生物学的製剤(例,アダリムマブ,インフリキシマブ,ベドリズマブ),トファシチニブ,ウパダシチニブ,またはオザニモドを使用する。

  • 劇症大腸炎の治療は,高用量のコルチコステロイド静注またはシクロスポリンおよび抗菌薬(例,メトロニダゾール,シプロフロキサシン)またはインフリキシマブによって行い,結腸切除術が必要になることがある。

  • 広範な潰瘍性大腸炎を有する患者の約3分の1が最終的に手術を必要とする。

より詳細な情報

有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. American College of Gastroenterology: Guidelines for the management of ulcerative colitis in adults (2019)

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