浸水性肺水腫

(水泳誘発性肺水腫;SIPE)

執筆者:Richard E. Moon, MD, Duke University Medical Center
レビュー/改訂 2023年 4月
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浸水性肺水腫は,一般的には水面または深い潜水の初期に発生する突然発症の肺水腫である。

潜水障害の概要も参照のこと。)

浸水性肺水腫は,ここ20年間でより広く認識されている。浸水性肺水腫は,肺の圧外傷または減圧症とは関係しない。代わりにこれは,感受性の高い患者において,末梢から肺血管への血液再分布により肺血管圧が過度に上昇することによって起こる血行動態性肺水腫に関連している。危険因子としては,冷水への曝露,高血圧の既往,肺疾患,ならびに左室の収縮および拡張機能の異常が関与する他の心疾患(弁膜症および心筋症を含む)などがある。この症候群はダイバーや,水面で起こる場合には,オープンウォータースイミングの選手で最もよくみられる。

重度の呼吸困難が,通常はダイバーが潜水中に起こる。ダイバーは通常,急速に浮上し,咳嗽,塗抹状の喀痰,両肺野全体で聴取される断続性ラ音およびときにチアノーゼを呈する。低酸素症をしばしば呈し,死に至ることがある。

胸部X線は,典型的な肺水腫を示す。心臓の評価では通常,右室および左室の機能は正常で,冠動脈にも異常はみられないが,壁運動異常,弁機能障害,および心筋症(たこつぼ型心筋症を含む)が原因として報告されている。心エコー検査では,拡張機能障害が記録されることがある。

浸水性肺水腫を消失させるのに通常は,低酸素血症を治療するための酸素投与,およびときに吸入β2作動薬で十分である。利尿薬が必要になることはまれである。重症例では機械的人工換気が必要になることがある。再圧治療の適応はない。

総論の参考文献

  1. Peacher DF, Martina SD, Otteni CE, et al: Immersion pulmonary edema and comorbidities: Case series and updated review.Med Sci Sports Exerc 47(6):1128-34, 2015.doi: 10.1249/MSS.0000000000000524

  2. Grünig H, Nikolaidis PT, Moon RE, et al: Diagnosis of swimming induced pulmonary edema: A review.Front Physiol 8:652, 2017.doi: 10.3389/fphys.2017.00652

  3. Hårdstedt M, Seiler C, Kristiansson L, et al: Swimming-induced pulmonary edema: Diagnostic criteria validated by lung ultrasound.Chest 158(4):1586-1595, 2020.doi: 10.1016/j.chest.2020.04.028

浸水性肺水腫の予防

予防の取り組みの目的は,高リスク者を同定することにある。浸水性肺水腫を経験したことのある個人には,高血圧心臓弁膜症心筋症,および肺疾患など素因となる病態についてスクリーニングを行うべきである。リスクのある人では,無症候性冠動脈疾患を考慮すべきである。感受性の高い人では浸水性肺水腫が再発する傾向があるため,そのような人が潜水または競泳に戻る前に,治療可能な危険因子について評価すべきである。

より詳細な情報

有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. Divers Alert Network: 24-hour emergency hotline, 919-684-9111

  2. Duke Dive Medicine: Physician-to-physician consultation, 919-684-8111

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