乳頭分泌物

執筆者:Lydia Choi, MD, Karmanos Cancer Center
レビュー/改訂 2022年 3月
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乳頭分泌物は妊娠または授乳中でない,特に妊娠可能年齢の女性で一般的な愁訴である。乳頭分泌物は,閉経後女性であっても必ずしも異常ではないが,男性では常に異常である。色に関係なく,自発性で片側性の乳頭分泌物は異常とみなされる。

乳頭分泌物は漿液性(黄色),粘液性(透明で水様性),乳白色,血液性(血性),膿性,複数の色で粘着性,または漿液血性(ピンク色)であることがある。自然に起こることもあれば乳房の触診に反応してのみ起こることがある。

乳頭分泌物の病態生理

乳頭分泌物は,乳汁である場合と,いくつかの病態で産生される滲出液である場合がある。

妊娠しておらず授乳していない女性での乳汁産生(乳汁漏出症)は典型的には,乳房の腺組織を刺激するプロラクチン濃度の上昇による。ただし,プロラクチン濃度が高い患者のうち乳汁漏出症が発生するのは一部においてのみである。

乳頭分泌物の病因

多くの場合,乳頭分泌物の原因は良性である(乳頭分泌物の主な原因の表を参照)。がん(通常,乳管内癌または浸潤性乳管癌)によるものは,症例の10%未満である。残りは,良性の乳管疾患(例,乳管内乳頭腫,乳管拡張,線維嚢胞性変化),内分泌疾患(例,下垂体腫瘍),肝疾患,乳房膿瘍,乳房感染症,または特定の薬剤の使用から生じる。これらの原因の中で乳管内乳頭腫がおそらく最も一般的である;乳房腫瘤を認めない血性乳頭分泌物の最も頻度の高い原因でもある。

表&コラム
表&コラム

乳頭分泌物の評価

病歴

現病歴には以下を含めるべきである:

  • その時点でみられる分泌物が片側性か両側性か

  • 色は何色か,血性ないし血液が混じっているか

  • どれくらい持続しているか

  • 自発的に生じるか,乳頭を刺激したときにのみ生じるか

  • 腫瘤乳房痛はあるか

システムレビュー(review of systems)では,以下のような可能性のある原因を示唆する症状がないか検討すべきである:

授乳期以外の乳腺炎は,乳管周囲乳腺炎(periductal mastitis)(idiopathic granulomatous mastitis),特発性肉芽腫性乳腺炎,または結核性乳腺炎の可能性がある。

既往歴の聴取では,不妊,高血圧,抑うつ,授乳,月経パターン,およびがんの既往だけでなく,慢性腎不全,妊娠,肝疾患,甲状腺疾患などの高プロラクチン血症の原因となりうる病態を対象に含めるべきである。医師は,経口避妊薬,降圧薬(例,メチルドパ,レセルピン,ベラパミル),H2受容体拮抗薬(例,シメチジン,ラニチジン),オピオイドおよびドパミンD2拮抗薬(例,フェノチアジン系薬剤および三環系抗うつ薬を含む多くの向精神薬)などのプロラクチン放出を起こしうる薬剤について具体的に尋ねるべきである。

身体診察

身体診察では乳房診察に焦点を置く。男性患者では,女性化乳房があればそれに注目する。乳房を視診して,対称性,皮膚の陥凹,紅斑,腫脹,乳頭と皮膚の色の変化,痂皮形成,潰瘍,または乳頭陥凹(nipple retraction)がないか確認する。乳房を触診して,腫瘤および腋窩または鎖骨上部のリンパ節腫脹の所見がないか確認する。自発性の乳頭分泌がなければ,乳頭周囲を系統的に触診して分泌を誘発し,分泌に関連する特定の部位があれば同定する。

乳頭分泌物が単独の乳管に由来するものか複数の乳管に由来するものかを判定するには,明るい照明下で拡大レンズを使用することが役に立つ。

警戒すべき事項(Red Flag)

特定の所見には特に注意が必要である:

  • 触知可能な乳房腫瘤または皮膚変化

  • 血性分泌物

  • 片側性の分泌物

  • 自発性の分泌物

  • 年齢40歳以上

  • 男性

所見の解釈

腫瘤があるか,分泌物がグアヤック法で陽性になる場合は,たとえ両側性であっても,がんを考慮しなければならない。

両側性または複数の乳管由来でグアヤック法陰性の分泌物は,内分泌的な原因を示唆する。

以下のいずれかが存在する場合,乳房疾患の経験が豊富な外科医とのフォローアップが必要である:

  • 乳房腫瘤

  • 血性(またはグアヤック法陽性の)分泌物

  • 自発性で片側性の分泌物

  • 過去にマンモグラフィーまたは超音波検査で異常が認められたことがある

他の示唆する所見については,乳頭分泌物の主な原因の表を参照。

検査

内分泌系の原因が疑われる場合は,以下を測定する:

  • プロラクチン濃度

  • 甲状腺刺激ホルモン(TSH)値

分泌物がグアヤック法陽性の場合,以下を行う:

  • 細胞診

触知可能な乳腺腫瘤がある場合は,評価に以下を含めてもよい:

  • 超音波検査,嚢胞の穿刺吸引,またはマンモグラフィー

腫瘤は認めないが,その他の点ではがんが疑われる場合または他の検査が確定的でない場合は以下を行う:

  • マンモグラフィー

画像検査または細胞診(嚢胞穿刺吸引)の結果が異常であれば,画像ガイド下で生検を施行する。

マンモグラフィーと超音波検査で原因が同定されず,分泌物が自発性で単一の乳管または片側乳房から生じる場合は,評価に以下を含めてもよい:

  • 乳管造影(乳管の造影X線撮影)または画像ガイド下生検

乳頭分泌物の治療

乳頭分泌物の治療は原因に基づいて行う。画像検査で病変が同定された場合は,コア生検を施行する。

乳癌は状況に応じた方法で治療する。

乳管内乳頭腫は,血性乳頭分泌物の最も一般的な原因であるが,通常は針生検による診断後に切除する。この処置により,さらなる乳頭分泌物の発生を予防するとともに,がん併存のわずかな可能性を除外することができる。ただし,石灰化巣の生検で偶然発見された顕微鏡的乳頭腫は例外である。

高プロラクチン血症は,薬物療法または下垂体腫瘍の外科的切除で治療する。肝疾患は,具体的な疾患に応じて適切に治療する。

要点

  • 乳頭分泌物は大半が良性である。

  • 両側性かつ複数の乳管由来でグアヤック法陰性の分泌物は,通常は良性であり,内分泌的な病因がある。

  • 自発性で片側性の分泌物は診断検査が必要である;このタイプの分泌物は,特に血性(またはグアヤック法陽性)の場合にがんであることがある。

  • 乳房腫瘤,血性(またはグアヤック法陽性)分泌物,マンモグラフィーまたは超音波検査で過去に異常を指摘されている場合は,乳房疾患の経験豊富な外科医によるフォローアップが必要である。

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