良性発作性頭位めまい症

(良性頭位めまい;良性体位めまい;BPPV)

執筆者:Mickie Hamiter, MD, New York Presbyterian Columbia
レビュー/改訂 2023年 5月
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良性発作性頭位めまい症では,特定の頭位で短時間(60秒未満)の回転性めまいの発作が起こる。悪心および眼振が生じる。診断は臨床的に行う。治療は浮遊耳石置換法により行う。薬物療法および手術が適応となることは,あったとしてもまれである。

良性発作性頭位めまい症(BPPV)は,再発性耳性めまいの最も一般的な原因である。加齢とともに発症する人が増え,高齢者では平衡機能に重度の影響が生じ,負傷しかねない転倒を招くこともある。

良性発作性頭位めまい症の病因

BPPVは,耳石(炭酸カルシウムの結晶で,正常では球形嚢および卵形嚢の中にある)の変位によって引き起こされると考えられている。この物質の変位により,多くは後半規管内,ときに外側半規管内,およびまれに上半規管内にある有毛細胞が刺激され,動きの錯覚が生じる。病因には以下のものがある。

  • 卵形嚢の耳石膜の自然変性

  • 内耳震盪

  • 中耳炎

  • 耳の手術

  • 最近のウイルス感染(例,ウイルス性神経炎

  • 頭部外傷

  • 長期の麻酔または床上安静

  • 過去の前庭疾患(例,メニエール病

  • 前前庭動脈の閉塞

耳の内部

良性発作性頭位めまい症の症状と徴候

回転性めまいは,患者の頭が動いたとき(例,ベッドで寝返りを打ったときや,何かを拾おうとして腰をかがめたとき)に引き起こされる。急性の回転性めまいの発作は数秒から数分しか続かない;発作は朝にピークとなり,その日を通して和らぐ傾向がある。悪心や嘔吐が起こることもあるが,難聴や耳鳴は起こらない。

良性発作性頭位めまい症の診断

  • 臨床的評価

  • 所見が中枢神経系病変を示唆する場合,ガドリニウム造影MRI

BPPVの診断は,特徴的症状とDix-Hallpike法(Barany法とも呼ばれる)により誘発される眼振を認め,神経学的診察でその他の異常を認めないことに基づく。このような患者にさらなる検査は不要である。

Dix-Hallpike法(頭位眼振を誘発する検査)では,以下のようになる:

  • 患者を診察台の上で,体幹を倒して仰臥位になったときに診察台の端から頭部が出る位置で体幹を直立して座らせる。

  • 患者の体幹を支えながら速やかに水平位まで倒し,頭部を後方に伸展して水平線より45°下を向くようにした後,左側に45°回転させる。

  • 患者に視点を1カ所に固定するよう指示する;固視により眼振の持続時間が短くなったり,発生しなくなることさえあるため,この操作は,視点を1カ所に固定できないようにするフレンツェル眼鏡をかけて行うのが理想的である。

  • 患者を座位に戻し,同じ操作を右方向への回転で繰り返す。

  • 次に,頭部を45°の方向に向けた状態を維持できるように,診察台の端から頭部を20度ほど垂れ下がるようにする。

  • 回転性めまいと眼振が現れるまでに約5~10秒(ときに最大30秒)かかることがある(潜時)。症状は10~30秒続いた後,弱まって消失する(疲労現象)。

眼振の持続時間と回転性めまいの発生に注目する。眼振は回旋性であり,頭部を患側に回転させると生じる。眼振を引き起こす姿勢または操作があれば,それを繰り返して眼振の疲労現象が起こるかどうか確認すべきである。

中枢神経系病変による頭位眼振は,BPPVによる頭位眼振とは異なり以下の特徴を有する:

  • 潜時,疲労現象,および重度の自覚症状がみられない

  • その頭位が維持される限り持続することがある

  • 垂直性または方向交代性である

  • 回旋性の場合には予期せぬ方向であることが多い

中枢神経系病変を示唆する眼振がみられる場合は,脳および内耳道のガドリニウム造影MRIを施行する。

良性発作性頭位めまい症の治療

  • 疲労症状を減衰させるための誘発操作

  • 浮遊耳石置換法

通常,BPPVは数週間から数カ月で自然に治まるが,数カ月から数年間続くこともある。

短時間の発作が長期にわたり繰り返し起こる可能性があるため,薬物療法(メニエール病において用いるような)は推奨されない。しばしば薬物の有害作用により平衡障害が悪化する。

BPPVでは疲労現象がみられることから,1つの治療アプローチとして,患者に1日の早い時間帯に安全な環境で誘発操作を行わせる方法がある。そうすると,その日1日,症状は最小となる。

浮遊耳石置換法(最も一般的にはEpley法,またはあまり一般的ではないがSemont法もしくはBrandt-Daroff法)では,一連の特定の位置をとるように頭を動かし,位置がずれた耳石を卵形嚢に戻す。Epley法またはSemont法を実施した後は,患者は1~2日間,頸部の屈曲・伸展を避けるよう努めるべきである。これらの方法は必要に応じて繰り返すことができる。Brandt-Daroff法は,1セット5回で1日3セットを約2週間またはこの運動を行っても回転性めまいが起きなくなるまで行う。これらの方法はいずれも患者が自宅で行うことができる。

Epley法:回転性めまいの一般的な原因に対する単純な治療法

この手技は,以下に赤矢印で示されている時計回りの順序に従って行う。

Semont法では,患者を診察台の中央に上体を直立にして座らせる。患者の頭を健側耳の方へ回転させる;操作中回転させた状態を維持する。次に,患耳の方の体側を下にして鼻が上を向いて横たわるように,患者の胴体を横向きに診察台の上に倒す。この姿勢を3分間保った後,頭の位置は戻さずに患者の上体を素早く起こし,今度は反対側に横向きに倒す(このとき,鼻は下を向く)。この姿勢を3分間保った後,患者の上体をゆっくりと直立に戻し,頭を回転させて正常な位置へ戻す。

Brandt-Daroff法は,患者に教えることができる。患者は,座位をとった状態から側方に横たわり,鼻を45度上方に向ける。約30秒間または回転性めまいが消失するまでこの体位を維持した後,座位に戻る。反対側でも同じ動きを行う。このサイクルを5回連続繰り返し,1日3回,約2週間またはこの運動を行っても回転性めまいが出なくなるまで続ける。

要点

  • BPPVでは,回転性めまいは耳石が半規管内に変位することで生じ,頭部の運動によって症状が誘発される。

  • 悪心や嘔吐も起こりうるが,耳鳴や難聴は起こらない。

  • 診断は臨床的に行うが,その他の疾患を除外するために,MRIを必要とする患者もいる。

  • 浮遊耳石置換法により治療する。

  • 薬剤はまれにしか有用でなく,また症状を悪化させる場合もある。

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