トキソプラズマ症

執筆者:Chelsea Marie, PhD, University of Virginia;
William A. Petri, Jr, MD, PhD, University of Virginia School of Medicine
レビュー/改訂 2022年 12月
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トキソプラズマ症は,Toxoplasma gondiiによる感染症である。症状はないこともあれば,良性リンパ節腫脹(伝染性単核球症様疾患)から,易感染者における生命を脅かす中枢神経系疾患やその他の臓器の障害まで,様々である。AIDS患者およびCD4陽性細胞数が少ない患者では,脳炎が発生する可能性がある。先天性感染症では網脈絡膜炎,痙攣発作,および知的障害が起こる。診断は血清学的検査,病理組織学的検査,またはPCR検査による。治療は多くの場合,ピリメタミン + スルファジアジンまたはクリンダマイシンの併用による。網脈絡膜炎に対してはコルチコステロイドを併用する。

ネコがいる場所では,ヒトのトキソプラズマ症への曝露がよくみられる。6歳以上の米国居住者の11%が血清反応陽性(感染していることを意味する)になると推定されており,他の地域の一部の集団では60%以上が感染したことがある(Centers for Disease Control and Prevention: Epidemiology & Risk Factorsを参照)。子宮内で感染した胎児とAIDSまたはその他の疾患により重度の易感染状態にある人々またはそうなる人々を除けば,重篤な疾患の発生リスクは非常に低い。

トキソプラズマ症の病態生理

T. gondiiは鳥類および哺乳類に遍在する。この偏性細胞内寄生虫は,あらゆる有核細胞の細胞質内に侵入してタキゾイトとして無性生殖する(Toxoplasma gondiiの生活環の図を参照)。宿主免疫が発現するとタキゾイトの増殖が止まり,組織シストが形成される;シストは休眠状態で特に脳,眼,および筋肉において数年間存続する。シスト内の休眠状態のトキソプラズマ(Toxoplasma)はブラディゾイトと呼ばれる。

T. gondiiの有性生殖はネコの腸管内でのみ起こり,それにより生じたオーシストは糞便中に排出され,湿った土壌で数カ月間感染性を維持する。

Toxoplasma gondiiの生活環

判明しているT. gondiiの終宿主は,ネコ科(イエネコおよびその近縁種)のみである。

  1. 1a.ネコの糞便中にオーシストが排出される。大量に排出されるが,その期間は通常1~2週間のみである。オーシストは胞子形成をして感染性をもつまでに1~5日かかる。

  2. 1b.ネコが胞子形成したオーシストを摂取して再感染する。

  3. 2.土壌,水,植物性物質,またはネコのトイレがオーシストで汚染される。自然界の中間宿主(例,鳥類,齧歯類,野生猟獣,ヒトの食用に飼育される家畜)が,感染した物質を摂取して感染する。

  4. 3.摂取後すぐにオーシストがタキゾイトに発育する。

  5. 4.タキゾイトが体中に広がり,神経,眼,および筋組織で組織シストを形成する。

  6. 5.組織シストを保有した中間宿主を摂取してネコが感染する。

  7. 6a.ヒトは組織シストを含む加熱調理が不十分な食肉を摂取して感染する可能性がある。

  8. 6b.ヒトは,ネコの糞便で汚染された食品や水または糞便で汚染された他の物質(例,土壌)を摂取したり,飼いネコのトイレを触ることで感染する可能性がある。

  9. 7.まれに,輸血または臓器移植が原因でヒトへの感染が起こる。

  10. 8.まれに,母親から胎児への経胎盤感染が起こる。

  11. 9.ヒト宿主の体内で,原虫が組織シストを形成し,骨格筋,心筋,脳,および眼に最もよくみられる;こうしたシストは宿主の生涯にわたって残存し,宿主が易感染状態になると再活性化する可能性がある。

感染は以下により起こる可能性がある:

  • オーシストの摂取

  • 組織シストの摂取

  • 経胎盤感染

  • 輸血または臓器移植

ネコの糞便で汚染された食品または水の中のオーシストの摂取は,経口感染の形態として最も多い。組織シストを含む生または加熱調理不十分な肉(子羊の肉,豚肉が最も多い,まれに牛肉)を摂取することで感染することもある。

オーシストまたは組織シストの摂取後に,タキゾイトが放出され,全身に広がる。この急性感染に続いて防御免疫反応が発生し,多数の臓器内で組織シストが形成される。シストは主に易感染性患者において再活性化し,疾患を引き起こす可能性がある。抗菌薬の予防投与を受けていないAIDS患者の30~40%でトキソプラズマ症が再活性化するが,Pneumocystisの感染予防のためのトリメトプリム/スルファメトキサゾールの広範な使用により,その発生率は劇的に低下している。

トキソプラズマ症は,母親が妊娠中に感染したり,免疫抑制により以前の感染が再活性化すると,経胎盤的に伝播しうる。過去にトキソプラズマ(Toxoplasma)に感染し,妊娠前に免疫を獲得していた母親から胎児にトキソプラズマ(Toxoplasma)が伝播することは極めてまれである。

血清反応陽性のドナーからの全血または白血球の輸血もしくは臓器移植を介して伝播が起きることもある。

他の点では健康な人において,先天性または後天性の感染症が眼内で再活性化することがある。健常者では眼以外の部位での再活性化は非常にまれである。過去の感染は再感染に対する抵抗性を付与する。

トキソプラズマ症の症状と徴候

感染症は以下に示すいくつかの様式で現れる:

  • 急性トキソプラズマ症

  • 中枢神経系トキソプラズマ症

  • 先天性トキソプラズマ症

  • 眼トキソプラズマ症

  • 易感染性患者における播種性疾患または中枢神経系以外の感染

急性トキソプラズマ症

急性感染症は通常無症状であるが,10~20%の患者では,頸部または腋窩に両側性の圧痛を伴わないリンパ節腫脹を引き起こすことがある。こうした患者のうち少数では,軽度のインフルエンザ様症候群として発熱,倦怠感,筋肉痛,肝脾腫のほか,頻度はより低くなるが,リンパ節炎を伴い伝染性単核球症に類似する咽頭炎もみられる。異型リンパ球増多,軽度の貧血,白血球減少,および肝酵素の軽度上昇がよくみられる。この症候群は数週間持続しうるが,ほとんどの場合自然治癒する。

中枢神経系トキソプラズマ症

トキソプラズマ症を発症したAIDS患者または他の易感染性患者の大半は,脳炎を呈し,造影CTまたは造影MRIでリング状に造影される頭蓋内腫瘤病変がみられる。CD4陽性細胞数が50/μL未満の患者はリスクが最も高く,CD4陽性細胞数が200/μLを超える場合は,トキソプラズマ脳炎はまれである。こうした患者では,典型的には頭痛,精神状態の変化,痙攣発作,昏睡,発熱のほか,ときに運動または感覚障害などの局所神経脱落症状,脳神経麻痺,視覚異常,および焦点発作がみられる。

先天性トキソプラズマ症

先天性トキソプラズマ症は,妊娠中の母親にしばしば無症候性の初感染が起きることで生じる。受胎前に感染した女性は,妊娠中に免疫抑制により感染が再活性化しない限り,通常は胎児にトキソプラズマ症を伝播しない。自然流産,死産,または先天異常が生じることがある。トキソプラズマ症をもって出生する胎児の割合は,母親の感染時期によって異なり,第1トリメスターでは15%であるが,第2トリメスターでは30%,第3トリメスターでは60%に上昇する。母親が妊娠後期に感染した場合,先天性疾患の重症度は低くなる。

新生児における疾患は重症となりうる(特に妊娠の早い段階で感染した場合);症状としては,黄疸,発疹,肝脾腫,以下に挙げる特徴的な四徴候などがある:

  • 両側性網脈絡膜炎

  • 脳内石灰化

  • 水頭症または小頭症

  • 精神運動制止

予後は不良である。

感染がそれほど重症ではない多くの小児および妊娠第3トリメスターに感染した母親から生まれた乳児の大部分は,出生時には健康にみえるが,数カ月,場合により数年後に痙攣発作,知的障害,網脈絡膜炎,または他の症状が発生するリスクが高い。

眼トキソプラズマ症

この病型は,通常は先天性感染に起因し,しばしば10代および20代に再活性化するが,まれに後天性感染でも生じることがある。局所的な壊死性網膜炎および脈絡膜の二次性肉芽腫性炎症が生じ,眼痛,霧視,およびときに失明を引き起こす場合がある。再発がよくみられる。

播種性感染症および中枢神経系以外の感染

眼および中枢神経系以外の疾患ははるかに少なく,主に重度の易感染性患者で生じる。こうした患者は,肺炎,心筋炎,多発性筋炎,びまん性斑状丘疹状皮疹,高熱,悪寒,および極度の疲労を呈する場合がある。

トキソプラズマ肺炎においては,びまん性の間質性浸潤が急速に進行して硬化し,呼吸不全を引き起こすことがあり,一方動脈内膜炎により小さな肺区域に梗塞を来しうる。しばしば無症状ながら伝導障害がよくみられる心筋炎は,急速に心不全に至ることがある。

未治療の播種性感染症は通常致死的である。

トキソプラズマ症の診断

  • 血清学的検査

  • 中枢神経系感染に対してCTまたはMRIおよび腰椎穿刺

  • 生検組織の病理組織学的評価

  • 血液,髄液,組織,または妊娠中であれば羊水を検体とするPCR法による検査

トキソプラズマ症の診断は通常,IgG抗体およびIgM抗体に対する間接蛍光抗体法(IFA)または酵素免疫測定法(EIA)を用いて血清学的に行う(トキソプラズマの血清学的検査の解釈の表を参照)。急性疾患の最初の2週間に特異的IgM抗体が現れ,4~8週間以内にピークに達し,最終的に検出不能となるが,急性感染後18カ月もの間みられることがある。IgG抗体はより緩徐に出現し,1~2カ月でピークに達し,数カ月から数年間にわたり高値にとどまることがある。トキソプラズマ(Toxoplasma)IgMに対する検査は特異性に欠ける。

表&コラム
表&コラム

妊娠中および胎児または新生児における急性トキソプラズマ症の診断は困難な場合があり,専門家へのコンサルテーションが推奨される。患者が妊娠しており,IgGおよびIgMが陽性であれば,IgG avidity testを施行すべきである。妊娠後12~16週間における抗体のavidityが高い場合は,基本的に妊娠中に感染した可能性が除外される。しかし,一部の患者では感染後何カ月もIgG avidityが低いまま持続するため,IgG avidityが低くても最近の感染を示すものとしては解釈できない。妊婦において最近の感染が疑われる場合は,介入を開始する前に,トキソプラズマ症の基準となる検査施設で検体を検査してもらうことで確認すべきである。患者にトキソプラズマ症と一致する臨床疾患がみられるもののIgG抗体価が低い場合は,疾患が急性トキソプラズマ症に起因するのであれば,宿主が重度の易感染状態にない限り,2~3週間後のフォローアップ時に抗体価が上昇を示すはずである。

一般に,新生児における特異的IgM抗体の検出は先天性感染を示唆する。母体のIgGは胎盤を通過するが,IgMは通過しない。先天性感染乳児においては,トキソプラズマ(Toxoplasma)特異的IgA抗体の検出がIgMよりも感度が高いが,この検査を行えるのは基準となる特別な臨床検査施設(例,カリフォルニア州パロアルトにあるPalo Alto Research InstituteのToxoplasma Serology Laboratory)に限られている。胎児または先天性の感染が疑われる場合には,専門家へのコンサルテーションを行うべきである。

ときにトキソプラズマ(Toxoplasma)が組織学的に証明される。タキゾイトは急性感染期に認められ,ギムザ染色またはライト染色で染まるが,ルーチン検査の組織切片での検出は困難なことがある。組織シストでは急性感染と慢性感染とを区別できない。トキソプラズマ(Toxoplasma)は,ヒストプラズマ(Histoplasmaクルーズトリパノソーマ(Trypanosoma cruziリーシュマニア(Leishmaniaなど,他の細胞内寄生生物と鑑別する必要がある。血液,髄液,または羊水中の原虫DNAをPCR法により検出する検査は,基準となる検査施設のいくつかで利用できる。PCR法に基づく羊水分析は,妊娠中のトキソプラズマ症診断のために選択される方法である。

中枢神経系トキソプラズマ症が疑われる場合,頭部造影CT,造影MRI,またはその両方を施行し,それに加えて,頭蓋内圧亢進の徴候がなければ腰椎穿刺も行うべきである。MRIはCTより高感度である。造影MRIおよびCTでは,典型的にはリング状に造影される円形病変が1つまたは複数認められる。これらの病変はトキソプラズマ症に固有のものではないが,AIDS患者および中枢神経系症状を有する患者において認められる場合は,T. gondiiに対する試験的化学療法の根拠となる。髄液のリンパ球細胞増加が陽性となることがあり,タンパク質濃度が上昇することがある。

易感染性患者では,IgGが陽性であれば急性感染を疑うべきである。ただし,トキソプラズマ(Toxoplasma)脳炎を有するAIDS患者のIgG抗体レベルは通常低値から中等値であり,ときにIgG抗体がみられないこともある;IgM抗体は認められない。

中枢神経系トキソプラズマ症の診断が正しければ,7~14日以内に臨床上および画像上の改善が明白となるはずである。症状が1週間で悪化した場合または2週目終了までに軽減しなかった場合は,脳生検を考慮すべきである。

眼疾患は,眼の病変の出現,症状,疾患の経過,および血清学的検査の結果に基づいて診断する。

トキソプラズマ症の治療

  • ピリメタミンおよびスルファジアジン + ロイコボリン(骨髄抑制を予防するため);あるいは,一部の状況ではトリメトプリム-スルファメトキサゾールの固定配合剤

  • 患者がスルホンアミド系薬剤にアレルギーがあるか,スルファジアジンに耐えられない場合,クリンダマイシンまたはアトバコン + ピリメタミン

症状がないか軽度の急性感染症で合併症がみられない場合は,免疫能正常の患者に対するトキソプラズマ症の治療適応はなく,内臓疾患があるか,症状が重症であるか持続している場合のみ治療が必要である。

ただし,以下の患者における急性トキソプラズマ症は特異的治療の適応である:

  • 新生児

  • 急性トキソプラズマ症の妊婦

  • 易感染性患者

パール&ピットフォール

  • 症状がないか軽度の急性トキソプラズマ症で合併症がみられない場合は,免疫能正常の患者に対する治療は不要である。

免疫能正常患者の治療

内臓病変または重度もしくは持続性の症状がある免疫能正常の患者に最も効果的なレジメンは,ピリメタミンとスルファジアジンの併用による2~4週間の治療である。用法・用量は以下の通りである:

  • ピリメタミン:成人では50mg,1日2回,2日間,その後25~50mg,1日1回(小児では1日目に2mg/kg,経口,その後1mg/kg,1日1回;最大25mg/日)+

  • スルファジアジン:成人では1g,経口,1日4回(小児では50mg/kg,1日2回)

骨髄抑制を予防するためにホリナートを同時投与(ロイコボリン):成人では10~20mg,経口,1日1回(小児では7.5mg,経口,1日1回)

スルホンアミド系薬剤に過敏症があるか過敏症を起こした患者には,スルホンアミド系薬剤の代わりにクリンダマイシン600~800mg,経口,1日3回をピリメタミンおよびロイコボリンと併用する。別の選択肢として,アトバコン + ピリメタミンとロイコボリンの併用がある。トリメトプリムとスルファメトキサゾールの固定配合剤が代替薬として使用されているほか,ピリメタミンとロイコボリンにクラリスロマイシン,ジアフェニルスルホン,またはアジスロマイシンを併用する治療が行われているが,これらは十分に検討されていない。

AIDSまたはその他の易感染状態にある患者の治療

抗レトロウイルス療法を最適化することが重要である。

易感染性患者ではより高用量でピリメタミンが使用されるが,その大半は中枢神経系やその他の臓器(まれ)のトキソプラズマ症を合併したAIDS患者である。1日目に負荷量としてピリメタミン200mgを経口投与した後,体重60kg未満の患者では50mg,1日1回または60kg以上の患者では75mg,1日1回に加えて,60kg未満の患者ではスルファジアジン1000mg,経口,1日4回または60kg以上の患者ではスルファジアジン1500mg,経口,1日4回の投与を最低6週間行い,臨床症候が消失した後も4~6週間継続する。ピリメタミンによる骨髄抑制は,ロイコボリン(ホリナートとも呼ばれる―治療効果を妨げる葉酸は不可)により最小限にできる。ロイコボリンの用法・用量は10~25mg,経口,1日1回である(小児では7.5mg,1日1回)。ロイコボリンを投与する際は,血算値を週1回モニタリングすべきである。

ピリメタミンが入手できない場合,トリメトプリム-スルファメトキサゾール(トリメトプリム5mg/kg,スルファメトキサゾール25mg/kg),静注または経口,1日2回の投与が効果的となりうる別の治療法であるが,寄生虫のジヒドロ葉酸還元酵素に対しては,トリメトプリムよりもピリメタミンの方が強い活性を示す。

スルホンアミド系を使用できない患者の場合は,ピリメタミンおよびロイコボリン + クリンダマイシン600mg,1日4回が可能である。アトバコン1500mg,1日2回の単剤投与またはピリメタミンおよびロイコボリンとの併用も別の選択肢である。

易感染状態が続く患者では,急性感染症の治療が成功した後も,再発予防のために長期維持療法が行われる。再発はCD4陽性細胞数200/μL未満のAIDS患者で特によくみられる。維持療法は抗レトロウイルス療法と同時に行い,CD4陽性細胞数が200/μLを超える状態が6カ月以上続くまで継続する。

維持療法にはいくつかの選択肢がある:

  • スルファジアジン,ピリメタミン,およびロイコボリン

  • クリンダマイシン,ピリメタミン,およびロイコボリン

  • アトバコン,ピリメタミン,およびロイコボリン

  • アトバコンおよびスルファジアジン

  • アトバコン

スルファジアジンおよびピリメタミンおよびロイコボリンは,初回治療時よりも少ない用量で継続できる:スルファジアジン1g,1日2回~1日4回に加え,ピリメタミン25~50mg,1日1回およびロイコボリン10~25mg,1日1回を投与する。スルホンアミド系薬剤に耐えられない患者への代替手段として,クリンダマイシン600mg,1日3回 + ピリメタミン25~50mg,1日1回 + ロイコボリン10~25mg,1日1回があるが,肺炎の予防のために追加の薬剤が必要である。ピリメタミンが入手できないか,患者がピリメタミンに耐えられない場合は,トリメトプリム-スルファメトキサゾールの2倍量の錠剤を1錠,1日2回で維持療法に使用することができる。長期維持療法のその他の選択肢としては,アトバコン750~1500mg,1日2回 + ピリメタミン25mg,1日1回 + ロイコボリン10mg,1日1回;アトバコン750~1500mg + スルファジアジン1g,1日2回~1日4回;アトバコン単剤750~1500mg,1日2回などがある。アトバコンをベースとする代替治療では,再発率がより高くなる可能性がある。

眼トキソプラズマ症の治療

眼トキソプラズマ症の治療は,詳細な眼科的評価の結果(炎症の程度;視力;病変の大きさ,部位,および持続)に基づいて行われる。用量は以下の通りである:

  • ピリメタミン:成人では1日目に100mgを単回負荷投与,その後25~50mg,経口,1日1回(小児では1日目に2mg/kg,その後1mg/kg,1日1回)+

  • スルファジアジン:成人では1日目に2~4gを経口負荷投与,その後500mg~1g,1日4回(小児では50mg/kg,1日2回)+

  • ホリナート(ロイコボリン):成人では5~25mg,経口,1日1回をピリメタミンの各投与と同時に(ピリメタミンを投与する場合)(小児では7.5mg,1日1回)

米国疾病予防管理センター(Centers for Disease Control and Prevention:CDC)は,眼トキソプラズマ症の治療を4~6週間続けた後に患者の状態を評価するよう推奨している(CDC: Toxoplasmosis: Resources for Health Professionalsも参照。)

眼トキソプラズマ症の患者には,炎症を軽減するためにコルチコステロイドもしばしば投与される。

妊娠患者の治療

急性トキソプラズマ症の妊婦を治療することで,胎児感染の発生率が低下する。

妊娠中最初の18週間の間に急性トキソプラズマ症に罹患した妊婦に対し,胎児への感染を低減するためにスピラマイシンが1g,経口,1日3回または1日4回で安全に使用されてきたが,スピラマイシンはピリメタミンとスルホンアミド系薬剤の併用よりも活性が低く,胎盤を通過しない。妊娠18週に羊水を採取してPCR検査を行い,胎児への感染が確認または除外されるまでスピラマイシンを継続する。伝播していなければ,分娩日までスピラマイシンを継続できる。胎児が感染している,または母親が妊娠18週以降に感染した場合は,ピリメタミン + スルファジアジン + ロイコボリンを使用する。ピリメタミンは催奇形性が強いため,第1トリメスターおよび第2トリメスター早期に使用してはならない。注:スピラマイシンは米国では市販されていないが,米国食品医薬品局(Food and Drug Administration:FDA)のDivision of Anti-Infective Drug Productsから入手可能である(電話:301-796-1400)。

感染症専門家へのコンサルテーションが推奨される。

先天性トキソプラズマ症の乳児の治療

先天性トキソプラズマ症の乳児は,ピリメタミン + スルホンアミド系薬剤の投与により1年間治療すべきである(1)。骨髄抑制を予防するため,乳児へのピリメタミン投与中およびピリメタミン中止後1週間はロイコボリンも投与すべきである。先天性感染乳児の治療に関するNational Reference Laboratory for Toxoplasmosis(PAMF-TSL)およびUniversity of ChicagoのToxoplasmosis Centerからの推奨は以下の通りである:

  • ピリメタミン1mg/kg,経口,1日2回を最初の2日間;その後3日目から2カ月間(症状があれば6カ月間)1mg/kg,1日1回,その後1mg/kg,週3回により計12カ月間の治療を完了するのに加えて

  • スルファジアジン50mg/kg,1日2回+

  • ホリナート(ロイコボリン)10mg,週3回

治療に関する参考文献

  1. 1.Maldonado YA, Read JS, Committee on Infectious Diseases: Diagnosis, treatment, and prevention of congenital toxoplasmosis in the United States. Pediatrics 139(2):e20163860, 2017.doi:10.1542/peds.2016-3860

トキソプラズマ症の予防

トキソプラズマ症を予防するには,生肉,土壌,またはネコのトイレに触れた後に徹底的な手洗いをすることが不可欠である。ネコの糞で汚染されている可能性がある食品は避けるべきである。肉は165~170° F(73.9~76.7℃)になるまで加熱調理すべきである。

妊婦にはネコとの接触を避けるよう忠告する。接触を避けられない場合は,少なくともネコのトイレの掃除を控えるか,行う場合は手袋を着用すべきである。土壌との接触を避けるため,庭仕事をする際も手袋を着用すべきである。

HIV陽性で血清学的検査でT. gondii IgG陽性と判定された患者には,CD4陽性細胞数が100/μL未満となった時点で化学療法薬による一次予防が推奨される。典型的にはトリメトプリム/スルファメトキサゾールの2倍量の錠剤を1日1回1錠で使用するが,Pneumocystis jiroveciiに対する予防効果もある。この用量に耐えられない場合は,代わりに2倍量の錠剤を週3回,または1倍量の錠剤を1日1回投与する。トリメトプリム/スルファメトキサゾールに全く耐えられない患者に対する代替レジメンとして,ジアフェニルスルホン50mg,1日1回 + ピリメタミン50mg,週1回 + ロイコボリン25mg,週1回や,ジアフェニルスルホン200mg,週1回 + ピリメタミン75mg,週1回 + ロイコボリン25mg,週1回などがある。化学予防はCD4陽性細胞数が200/μLを超えるまで継続する。

要点

  • T. gondiiはネコの腸管内でのみ有性生殖する;大半のヒト感染はネコの糞便に直接または間接的に接触することに起因するが,経胎盤感染またはシストを含んだ加熱調理不完全な食物の摂取によっても生じうる。

  • 米国の人口の約11%がT. gondiiに感染しているが,症候性の発症はまれであり,主に母親が妊娠中に急性感染して経胎盤的に感染した胎児か,HIVまたはその他の原因による易感染性患者に発生する。

  • 免疫能正常の患者における急性感染症は通常無症状であるが,10~20%はリンパ節腫脹など伝染性単核球症に類似した臨床像を呈する。

  • 易感染性患者では,典型的には脳炎がみられ,造影MRIまたはCTでリング状に造影される頭蓋内腫瘤病変が認められる。

  • 診断には,血清学的検査(IgG抗体およびIgM抗体),病理組織学的検査,またはPCR法を用いる。

  • 治療適応があるのは主に,先天的に感染した新生児,急性感染症のある妊婦,易感染性患者である。

  • ピリメタミンおよびスルファジアジン + ロイコボリンを使用し,患者がスルホンアミド系にアレルギーがある場合またはスルファジアジンに耐えられない場合,ピリメタミンおよびクリンダマイシンを使用する。

  • ピリメタミンは催奇形性が強いため,妊娠の第1トリメスターおよび第2トリメスター早期には使用してはならず,そうした場合の母親の感染症にはスピラマイシンが推奨される。

  • AIDS患者では抗レトロウイルス療法を最適化すべきであり,患者が無症状になり,CD4陽性細胞数が6カ月以上にわたり200/μLを上回るまで抑制治療を継続する。

より詳細な情報

有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. Centers for Disease Control and Prevention (CDC): Resources for Health Professionals: Toxoplasmosis

  2. AIDSinfo: Guidelines for Prevention and Treatment of Opportunistic Infections in HIV-Infected Adults and Adolescents

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