大腸憩室炎

執筆者:Joel A. Baum, MD, Icahn School of Medicine at Mount Sinai;
Rafael Antonio Ching Companioni, MD, HCA Florida Gulf Coast Hospital
レビュー/改訂 2022年 10月
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憩室炎は,憩室に炎症が起きた状態であり,感染を伴うこともあれば伴わないこともあり,腸壁の蜂窩織炎,腹膜炎穿孔,瘻孔,または膿瘍を引き起こす可能性がある。主な症状は腹痛である。診断はCTによる。治療は腸管安静のほか,ときに抗菌薬,ときに手術による。

大腸憩室は,結腸の粘膜および粘膜下層が結腸の筋層を越えて突出した袋状の構造であり,腸管の全ての層を備えていないことから,偽性憩室とみなされる(憩室性疾患の定義も参照)。

多くの人が複数の大腸憩室を有している(憩室症)。憩室症の発生率は加齢に伴って高まり,80歳以上の人では約75%にみられる。急性憩室炎の頻度は,50歳以上では女性の方が高く,50歳未満では男性の方が高い。HIV患者および化学療法を受けている患者は,急性憩室炎の発生リスクが高い(1)。

憩室は通常,無症状であるが,ときに炎症(憩室炎)を起こす。ある研究では,憩室症が確認された患者の4.3%で11年間の追跡期間中に憩室炎が発生したと報告された(2)。

手術なしで管理された憩室炎は,急性または慢性いずれかの経過で再発する可能性がある。急性の再発リスクは最大39%であるが,報告されている発生率には大きな幅がある(3)。大規模な集団ベース研究では,急性憩室炎が1回発生した後の再発率は,1年時点で8%,10年時点で22%であった(4)。2回目の憩室炎の約半数は12カ月以内に発生する。一方,再発が慢性かつ持続性の腹痛として現れる患者もおり,このような事態は急性の発症がみられた後に起きる可能性がある。

総論の参考文献

  1. 1.Francis NK, Sylla P, Abou-Khalil M, et al: EAES and SAGES 2018 consensus conference on acute diverticulitis management: Evidence-based recommendations for clinical practice.Surg Endosc 33(9):2726–2741, 2019.doi.org/10.1007/s00464-019-06882-z

  2. 2.Shahedi K, Fuller G, Bolus R, et al: Long-term risk of acute diverticulitis among patients with incidental diverticulosis found during colonoscopy.Clin Gastroenterol Hepatol 11(12):1609–1613, 2013.doi: 10.1016/j.cgh.2013.06.020

  3. 3.Sallinen V, Mali J, Leppäniemi A, Mentula P: Assessment of risk for recurrent diverticulitis: A proposal of risk score for complicated recurrence.Medicine (Baltimore) 94(8):e557, 2015.doi: 10.1097/MD.0000000000000557

  4. 4.Bharucha AE, Parthasarathy G, Ditah I, et al: Temporal trends in the incidence and natural history of diverticulitis: A population-based study.Am J Gastroenterol 110(11):1589–1596, 2015.doi: 10.1038/ajg.2015.302

大腸憩室炎の病因

憩室炎の病因や病態生理は十分に解明されておらず,患者間で異なる可能性がある。憩室炎は,憩室に微小または巨大穿孔が生じた結果,腸内細菌が放出され,炎症が惹起された場合に発生すると長らく考えられてきた。しかしながら,新たなデータから,一部の患者では急性憩室炎は感染性の過程というよりも炎症性の過程であることが示唆されている。さらに,サイトメガロウイルスが炎症の誘因となる可能性があり,3分の2を超える憩室炎患者では,患部の結腸組織において活発なウイルスの複製が認められている。

複数の研究で,週当たりの赤身肉の摂取量,喫煙量,および肥満度と憩室炎の発生率との間に直接的な相関があることが示唆された(1, 2)。非ステロイド系抗炎症薬,アスピリン,アセトアミノフェン,コルチコステロイド,およびオピオイドも憩室症および憩室炎のリスクを増大させる(3,4)。かつてナッツ,種子類,トウモロコシ,ポップコーンの摂取と憩室炎の発生との間に関連があると考えられていたが,実際にはそのような関連はない。運動と食物繊維は,憩室の形成および憩室炎の発生の予防に役立つことが示されている(3, 4)。

病因論に関する参考文献

  1. 1.Cao Y, Strate LL, Keeley BR, et al: Meat intake and risk of diverticulitis among men.Gut pii: gutjnl-2016-313082, 2017.doi: 10.1136/gutjnl-2016-313082

  2. 2.Strate LL, Keeley BR, Cao Y, et al: Western dietary pattern increases, and prudent dietary pattern decreases, risk of incident diverticulitis in a prospective cohort study.Gastroenterology 152(5):1023–1030.e2, 2017.doi: 10.1053/j.gastro.2016.12.038

  3. 3.Bohm SK, Kruis W: Lifestyle and other risk factors for diverticulitis. Minerva Gastroenterol Dietol 63(2):110–118, 2017.doi: 10.23736/S1121-421X.17.02371-6

  4. 4.Schultz JK, Azhar N, Binda GA, et al: European Society of Coloproctology: Guidelines for the management of diverticular disease of the colon.Colorectal Dis 22 (supplement 2):S5–S28, 2020.doi: 10.1111/codi.15140

大腸憩室炎の分類

急性憩室炎は以下のように分類できる:

  • 急性単純性憩室炎(acute uncomplicated diverticulitis):急性憩室炎の最も一般的な(75~80%)臨床像である

  • 急性複雑性憩室炎(acute complicated diverticulitis):膿瘍,瘻孔,閉塞,または遊離穿孔が存在する場合と定義され,2つの分類が存在する(例,急性複雑性憩室炎の分類の表を参照)

合併症は,炎症を起こした憩室に穿孔が生じた後に発生する可能性がある。

急性複雑性憩室炎患者の約15%に結腸周囲または腸間膜内膿瘍がみられる。

急性憩室炎が完全に治癒しない場合,慢性憩室炎となる。

慢性憩室炎は以下のように分類できる:

  • 慢性単純性憩室炎(chronic uncomplicated diverticulitis):結腸壁の肥厚または慢性の粘膜炎症があるが狭窄はみられない場合と定義される

  • 慢性複雑性憩室炎(chronic complicated diverticulitis):急性大腸閉塞と瘻孔形成(膀胱に好発する)を引き起こすことがある狭窄性の病態を含む

表&コラム
表&コラム

大腸憩室炎の症状と徴候

左下腹部に疼痛および圧痛があり,しばしばS状結腸が触知可能で,疼痛がときに恥骨上部にみられる。しかしながら,アジア系の憩室炎患者は右側結腸の病変による右側腹部痛で発症することが多い。疼痛は悪心,嘔吐,発熱のほか,さらには膀胱炎の結果としてときに泌尿器症状を伴うことがある。腹膜刺激徴候(例,反跳痛または筋性防御)を認めることがあり,特に膿瘍または遊離穿孔を伴う場合に多い。瘻孔は,気尿症,糞尿症(尿に便が混入すること),汚濁した帯下,または腹壁,会陰,大腿部の皮膚または筋膜の感染として顕在化することがある。腸閉塞を起こした患者では,悪心,嘔吐,および腹部膨隆がみられる。出血はまれである。

再発した急性憩室炎は初回発生時と臨床像が類似し,必ずしも重症度が増すわけではない。

大腸憩室炎の診断

  • 腹部および骨盤CT

  • 回復後に大腸内視鏡検査

特徴的な腹部症状で発症した既知の憩室症を有する患者では,臨床的な疑いが高くなる。しかしながら,他の疾患(例,虫垂炎,結腸癌,卵巣がん,炎症性腸疾患)も同様の症状を引き起こすことがあるため,検査が必要である。

憩室炎の評価は,水溶性造影剤を経口および経直腸投与してから腹部および骨盤CTを施行することで行い,禁忌がなければ静注造影剤も投与する。ただし,約10%の患者では所見から憩室炎を結腸癌と鑑別することができない。妊娠中および若年の患者ではMRIが代替法となる(1, 2)。

がんの評価を行うために,しばしば症状消失後1~3カ月時点で大腸内視鏡検査が推奨される。ただし,高リスクの徴候(例,複雑性憩室炎,合併症を伴わず画像検査での異常または非典型的な経過を認める憩室炎,大腸癌の家族歴,貧血,体重減少)がない場合は,急性単純性憩室炎の発生後に悪性病変や進行した腺腫がみられる可能性は低い(2)。

診断に関する参考文献

  1. 1.Stewart DB: Review of the American Society of Colon and Rectal Surgeons clinical practice guidelines for the treatment of left-sided colonic diverticulitis.JAMA Surg 156(1):94–95, 2021.doi: 10.1001/jamasurg.2020.5019

  2. 2.Francis NK, Sylla P, Abou-Khalil M, et al: EAES and SAGES 2018 consensus conference on acute diverticulitis management: Evidence-based recommendations for clinical practice.Surg Endosc 33(9):2726–2741, 2019.doi: 10.1007/s00464-019-06882-z

大腸憩室炎の治療

  • 重症度によって異なる

  • ときに抗菌薬

  • 膿瘍のCTガイド下経皮的ドレナージ

  • ときに手術

それほど重症でない患者は,自宅での安静により治療する。通常,症状は速やかに軽快する。急性単純性憩室炎では,患者が耐えられるなら,食事制限をしないことが望ましい。食事制限を支持するデータはない。

より重症度の高い症状(例,中等度から重度の疼痛,発熱,著明な白血球増多)を呈する患者は入院させるべきであり,プレドニゾンを使用している患者(穿孔や汎発性腹膜炎のリスクが高い)も同様である。治療はベッド上安静,絶食(急性単純性憩室炎患者の場合),および輸液である。

抗菌薬

従来,急性憩室炎には合併症の有無に関係なく,全例で抗菌薬が推奨されていた。しかしながら,抗菌薬は単純性憩室炎の治療成績を改善しない可能性がデータから示唆されており,したがって,その他の点は健康な単純性のS状結腸憩室炎を有する患者は抗菌薬なしで安全に管理することができる。(American Gastroenterological Associationの急性憩室炎の管理に関する2015年版ガイドラインも参照のこと。)

抗菌薬療法は,急性複雑性憩室炎,免疫抑制,敗血症,または有意な併存症がある患者にのみ用いるべきである。

抗菌薬を使用する場合は,グラム陰性桿菌と嫌気性細菌をカバーするべきである。

治療を選択した外来患者に対して投与できる経口抗菌薬のレジメンとしては,以下の薬剤を7~10日投与するものが挙げられる:

  • メトロニダゾール(500mg,8時間毎)+ フルオロキノロン系薬剤(例,シプロフロキサシン,500mg,12時間毎)

  • メトロニダゾール(500mg,8時間毎)+ セファレキシン(500mg,6,8,または12時間毎)

  • メトロニダゾール(500mg,8時間毎)+ トリメトプリム/スルファメトキサゾール(800/160mg,12時間毎)

  • アモキシシリン(875mg,12時間毎)+ クラブラン酸(125mg,12時間毎)

  • モキシフロキサシン(400mg,1日1回,ペニシリン系またはメトロニダゾールを使用できない患者が対象)

入院患者に対する静注抗菌薬のレジメンは,疾患の重症度,有害な転帰のリスク(例,別の疾患,高齢,免疫抑制によるもの),耐性菌の可能性など,多くの因子に基づいて選択される。多くのレジメンが存在する。

膿瘍の大きさを手術またはインターベンションによる(超音波またはCTガイド下)ドレナージの必要性と関連付ける明確に定義された基準はない。しかしながら,小さな結腸周囲膿瘍(直径2~3cm以下)は,しばしば広域抗菌薬と腸管安静のみで消失する。

満足できる反応がみられた場合は,症状が軽減するまで入院を継続し,患者が耐えられるなら軟食で食事を再開する。症状が治まったら,患者に高繊維食を摂取させるとともに,再発を予防するため,非ステロイド系抗炎症薬(NSAID)やアスピリンを鎮痛薬としてルーチンに使用させないようにすべきである。

経皮的ドレナージまたは超音波ガイド下内視鏡的ドレナージ

CTガイド下経皮的ドレナージまたは超音波ガイド下内視鏡的ドレナージは,比較的大きな膿瘍(直径3cm超),抗菌薬で消失しない膿瘍,および臨床状態の悪化に対する標準治療になろうとしている。しかしながら,膿瘍が多房性,到達不能,またはドレナージで改善しない場合には,外科的介入が必要になる。

手術

遊離穿孔がみられる場合と診察または画像所見から糞便性腹膜炎(feculent peritonitis)が疑われる場合には,直ちに手術を行う必要がある。それ以外の手術適応としては,手術によらない治療で3~5日以内に反応がみられない重度の症状や,増悪する疼痛,圧痛,および発熱などがある。急性憩室炎で入院した患者のうち約15~20%で,その入院中に手術が必要になる(1)。

単純性い憩室炎に対しては,以前は再発回数に応じて外科的切除が推奨されていた。現在では,American Society of Colon and Rectal Surgeons(ASCRS)などの診療ガイドラインにより,2回目の発症後に待機的な大腸部分切除術を必須とするのではなく,ケースバイケースでの評価が推奨されている(26)(日本消化管学会の大腸憩室出血および大腸憩室炎に関する2019年版ガイドラインとASCRSの左側大腸憩室炎の治療に関する2020年版ガイドラインも参照)。再発を繰り返して死亡または合併症のリスクが高まっている患者は,典型的には手術適応とみなされる。

複雑性憩室炎については,外科的な推奨が一定していない。急性複雑性憩室炎の保存的に管理された後の患者に対して,待機的な大腸部分切除術はルーチンには推奨されない(7)。瘻孔および持続性の膿瘍がみられる慢性複雑性憩室炎の患者には,手術が推奨される。

結腸の病変部を切除する。穿孔,膿瘍,有意な炎症がいずれもない健康な患者では,断端を直ちに再吻合できる。それ以外の患者では一時的人工肛門造設術を行い,炎症が鎮静し全身状態が改善した後に,二期的に吻合する。

治療に関する参考文献

  1. 1.Wieghard N, Geltzeiler CB, Tsikitis VL: Trends in the surgical management of diverticulitis.Ann Gastroenterol 28(1):25–30, 2015.

  2. 2.Feingold D, Steele SR, Lee S, et al: Practice parameters for the treatment of sigmoid diverticulitis.Dis Colon Rectum 57:284–294, 2014.doi: 10.1097/DCR.0000000000000075

  3. 3.Regenbogen SE, Hardiman KM, Hendren S, Morris AM: Surgery for diverticulitis in the 21st century: A systematic review.JAMA Surg 149(3):292–303, 2014.doi: 10.1001/jamasurg.2013.5477

  4. 4.Comparato G, Di Mario F: Recurrent diverticulitis.J Clin Gastroenterol 42(10):1130–1134, 2008.doi: 10.1097/MCG.0b013e3181886ee4

  5. 5.Young-Fadok TM: Diverticulitis.N Engl J Med 379(17):1635–1642, 2018.doi: 10.1056/NEJMcp1800468

  6. 6.Stewart DB: Review of the American Society of Colon and Rectal Surgeons clinical practice guidelines for the treatment of left-sided colonic diverticulitis.JAMA Surg 156(1):94–95, 2021.doi: 10.1001/jamasurg.2020.5019

  7. 7.Schultz JK, Azhar N, Binda GA, et al: European Society of Coloproctology: Guidelines for the management of diverticular disease of the colon.Colorectal Dis 22 (supplement 2):S5–S28, 2020.doi: 10.1111/codi.15140

要点

  • 憩室炎は,憩室に炎症および/または感染が起きた状態である。

  • 炎症は約75%の患者では合併症なく経過するが,それ以外の患者では膿瘍,腹膜炎,腸閉塞,または瘻孔が生じる。

  • 診断は経口,注腸,および静注造影剤を用いた腹部および骨盤CTにより行い,発症の1~3カ月後にはがんを検索するための大腸内視鏡検査を施行する。

  • 管理は重症度によるが,典型的には保存的管理を行い,しばしば抗菌薬を使用し,ときに経皮的または超音波ガイド下内視鏡的ドレナージか外科的切除を行う。

より詳細な情報

有用となりうる英語の資料を以下に示す。ただし,本マニュアルはこれらの資料の内容について責任を負わないことに留意されたい。

  1. American Gastroenterological Association: Guidelines on management of acute diverticulitis (2015)

  2. Japan Gastroenterological Association: Guidelines for colonic diverticular bleeding and colonic diverticulitis (2019)

  3. American Society of Colon and Rectal Surgeons: Guidelines for the treatment of left-sided colonic diverticulitis (2020)

Segmental colitis associated with diverticular disease(SCAD)

大腸憩室症も参照のこと。)

SCADおよび慢性再発性憩室炎(chronic recurrent diverticulitis)は,憩室症を原因とする結腸の慢性炎症を記載するのに用いられる用語である。SCADでは通常,憩室内粘膜が侵され,大半が左側にみられ,直腸および上行結腸は侵されない。

SCADの原因は不明であり,複数の因子が関与している可能性がある。粘膜逸脱,便の停滞,限局性の虚血,腸内微生物叢の変化,慢性炎症などが関与している可能性がある。憩室症と大腸炎の関係にどの程度の因果関係があるのか,あるいは基礎に共通の因子があるのか,単なる偶然であるのかは不明であるが,組織学的には,炎症性腸疾患,感染性大腸炎,および虚血性大腸炎でみられるものと同様の特徴が認められる。憩室症患者におけるSCADの有病率は非常に低い(1%)。通常,SCADは60歳以上の男性に発生する。

SCADの症状としては血便,腹痛,下痢などがある。

SCADの診断は,内視鏡検査で粘膜の発赤,易出血性,および顆粒状の粘膜がびまん性または斑状の分布でみられ,それらが憩室内粘膜を侵している場合に示唆される。

SCADの治療は対症療法であり,現時点では質の高いランダム化臨床試験は実施されていない。抗菌薬のシプロフロキサシンおよびメトロニダゾールによる初期治療が推奨される。抗菌薬で改善しない患者には,メサラジン(5-ASA)の経口剤が使用できる。難治例にはコルチコステロイド(例,プレドニゾン)を使用する。ステロイド抵抗性またはステロイド依存性のSCAD患者に対しては,手術(大腸部分切除術)が選択肢の1つとなる。

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