妊娠中のセルフケア

執筆者:Raul Artal-Mittelmark, MD, Saint Louis University School of Medicine
レビュー/改訂 2021年 5月
プロフェッショナル版を見る
やさしくわかる病気事典

妊娠してから妊婦が自分で管理できることはたくさんあります。妊娠中の食事、薬剤や栄養補助食品の使用、運動、性交などについて質問があれば医師や医療従事者に相談するようにします。

食事と体重

妊娠中の女性は、適切な栄養素を含む十分な量の食事をとる必要があります。妊婦が母体と胎児に必要な栄養を十分摂取していないと、栄養分はまず胎児へ向かいます。ただし、1日の食事に約250キロカロリーを追加すれば、通常は胎児と母体のどちらにも十分な栄養が行き渡ります。追加するカロリーの大部分はタンパク質で補いましょう。栄養のバランスに気を配り、新鮮な果物、穀物、野菜などの摂取を心がけます。繊維質が豊富で糖分の少ないシリアルを選ぶのがよいでしょう。魚介類には胎児の成長と発達に重要な栄養素が含まれています。ただし、妊婦は水銀含有量の少ない魚介類を選ぶべきです。詳細については、魚介類中の水銀を参照してください。

米国では、塩分は食卓で加えなくても普通の食事に十分含まれています。市販の加工食品にはたいてい塩分が多く含まれているためなるべく控えます。

減量のためのダイエットは、妊娠中はたとえ妊婦が肥満であっても勧められません。これは胎児の正常な成長には、ある程度の体重増加が不可欠であるためです。ダイエットをすると胎児に供給される栄養が減ってしまいます。

妊娠中に増えるべき体重は妊娠前のBMI(ボディマスインデックス)により異なります。BMIは、体重(キログラム)を身長(メートル)の2乗で割った値で、身長に対して体重が正常かどうかを判断するのに用います。BMIが高い女性は、BMIが正常または低体重の人よりも、妊娠中に増えるべき体重が少なくなります。平均的な体格の米国人女性では、妊娠中の体重増加の目標値は約11.5~16キログラムです。

体重が増加しすぎると、母体や胎児に脂肪がつきます。妊娠後半は体重増加をコントロールするのが難しくなるため、妊娠後最初の数カ月にあまり体重を増やさないようにすべきです。しかし、体重が増加しないと、胎児の成長と発達を妨げます。第1トリメスター(妊娠0~12週)【訳注:日本でいう妊娠初期にほぼ相当】の総体重増加量は多くの女性で0.5~2キログラムの間であるべきです。

ときに、体液が貯留して体重が増加することがあります。妊娠後半には、あお向けに寝ている状態でいると脚から心臓へ戻ろうとする血流が大きくなっていく子宮に圧迫され、体液が貯留することがあります。このむくみは、1日に2~3回、左右どちらか(特に左側が好ましい)を下にして30~45分間ほど横になると緩和されることがあります。弾性サポートストッキングの着用も役に立つでしょう。

薬および栄養補助食品

一般に、妊娠中の薬剤の使用は避けるのがベストです。しかし場合によっては、薬剤を使用しなければならないことがあります。妊娠中はどんな薬剤でも、使用前に必ず医師に相談すべきです。アスピリンなどの市販薬や薬用ハーブなどのサプリメントも例外ではありません。特に妊娠後最初の3カ月間は十分に注意します。

妊娠すると鉄分の必要量が2倍になるため、ほとんどの妊婦は鉄剤による補給が必要です。平均的な女性の場合、食物から吸収する鉄分量では妊娠に必要な量を満たしません。もともと貧血がある場合や妊娠中に貧血になった場合は、貧血がない妊婦よりも多くの鉄分が必要でしょう。鉄剤を服用すると軽い胃の不快感が生じたり、便秘になったりすることがあります。

すべての妊婦は400マイクログラムの葉酸が含まれたサプリメントを摂取すべきです。一部の専門家は、600~800マイクログラムというそれよりやや多い量を推奨しています。総合ビタミン剤などの市販の製品には多くの場合、これらの用量が含まれています。妊娠前から葉酸の摂取を始めていれば理想的です。葉酸が欠乏すると、胎児に二分脊椎などの脊髄や脳の先天異常(神経管閉鎖不全)が生じるリスクが高くなります。神経管閉鎖不全の胎児を妊娠したことがある場合は、通常の推奨量よりかなり高用量(4000マイクログラム)の葉酸の摂取が推奨されます。1000マイクログラム以上の用量には処方せんが必要です。それ以外の妊婦はほとんど、葉酸欠乏症の女性であっても、標準的な妊婦用ビタミン剤に含まれる葉酸の量を摂取すれば十分です。

医師は、食事からの栄養が十分な場合でも、鉄と葉酸を含んだ妊婦用の総合ビタミン剤を毎日摂取することを勧めます。

知っていますか?

  • 通常、運動および性交が妊娠に害をもたらすことはありません。

  • 移動の際に妊婦は必ずシートベルトを着用すべきです。

運動

多くの女性が妊娠中は運動を控えめにした方がよいのではないかと心配します。しかしほとんどの場合、妊娠期間を通じて普段と同様の活動や運動を続けることができます。妊婦に適した運動は水泳や速足のウォーキングといったあまり激しくない運動です。ランニングや乗馬などの活動量の多い運動も、けが(特に腹部)がないように気をつければ可能です。人と接触するスポーツは避けるべきです。

性交

妊娠中は性欲が増すこともあれば、低下することもあります。性器出血、痛み、羊水の漏出、子宮収縮といった症状がなければ、妊娠期間を通じて性交は安全です。こうした症状がみられる場合には性交を控えるべきです。

授乳の準備

母乳で子育てをしたいと考えている場合でも、妊娠中に乳頭の手入れなどをする必要はありません。出産前から手で乳房を刺激して分泌物を搾り出すと、乳腺炎が起きたり、ときには早産になったりすることがあります。乳輪や乳頭では表面を保護する潤滑液が自然に分泌され、母乳を出す準備をしています。この分泌物は無理にふき取らないようにします。

実際に母乳で子育てをした人に話を聞いたり授乳の仕方を見せてもらったりすると、参考になったり励みになったりするでしょう。

妊娠中の旅行

妊娠中に最も安全に旅行できる時期は妊娠14~28週です。移動時間は1日6時間を超えないようにします。旅行に役立つアドバイスや情報を得るため、主治医に旅行の計画を相談するのも一案です。

車、飛行機などの乗り物に乗るときには、妊婦は必ずシートベルトを着用するようにします。シートベルトは、腰ベルトを大きくなった腹部の下に、斜めにかけるベルトを左右の胸の間にすると、シートベルトを快適に装着することができます。シートベルトは体に合うよう装着しなければなりませんが、きつくて苦しくならないようにします。

どのような旅行であれ、妊婦は一定時間経ったら両脚と両足首のストレッチを行ったり、伸ばす運動を行ったりするようにします。飛行機での移動は妊娠36週頃まで安全です。36週という制限を設ける主な理由は、慣れない環境での陣痛および分娩のリスクがあるためです。

妊婦における予防

出生前ケアは、妊娠を困難なものにする問題の認識と予防に重点を置いています。例えば、妊婦に対しては以下に挙げる多くの病気を調べるためのスクリーニング検査が行われます。

妊娠中の医療も参照のこと。)

妊娠前(可能な場合)と妊娠中の女性には、先天異常を予防するために葉酸塩(葉酸)が投与されます。また妊娠中には、しばしば貧血予防のために鉄分が投与されます。妊娠前と妊娠中は、タバコアルコールレクリエーショナルドラッグをやめるよう勧告されます。

quizzes_lightbulb_red
医学知識をチェックTake a Quiz!
ANDROID iOS
ANDROID iOS
ANDROID iOS