喉頭蓋炎

(声門上炎[supraglottitis])

執筆者:Alan G. Cheng, MD, Stanford University
レビュー/改訂 2022年 3月
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喉頭蓋炎は喉頭蓋および周辺組織において急速に進行する細菌感染症であり,突然の気道閉塞および死亡に至ることもある。症状としては,重度の咽頭痛,嚥下困難,高熱,流涎,吸気性喘鳴などがある。診断には声門上部構造の直接観察が必要であるが,これは十分な呼吸補助が可能になるまで行うべきではない。治療には気道の保護および抗菌薬などがある。

喉頭蓋炎はかつては主に小児に発生し,通常,インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)b型が原因であった。現在ではワクチン接種が広く行われているため,小児ではほとんど根絶されている(成人でより多く発生)。小児および成人における起因菌には,肺炎球菌(Streptococcus pneumoniae),黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus),無莢膜型インフルエンザ菌(nontypeable H. influenzae),パラインフルエンザ菌( Haemophilus parainfluenzae),β溶血性レンサ球菌,Branhamella catarrhalis,および肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)などがある。インフルエンザ菌b型は,依然として成人およびワクチン未接種の小児における原因である。

上咽頭に定着した細菌は局所に拡大し,声門上の蜂窩織炎を引き起こし,喉頭蓋,喉頭蓋谷,披裂喉頭蓋ヒダ,披裂軟骨,および喉頭室における著明な炎症を伴う。インフルエンザ菌(H. influenzae)b型感染では,感染が血行性に拡がる。

炎症を来した声門上部構造が機械的に気道を閉塞し,呼吸仕事量が増加し,究極的には呼吸不全が引き起こされる。炎症性分泌物のクリアランスもまた障害される。

喉頭蓋炎の症状と徴候

喉頭蓋炎の小児では,咽頭痛,嚥下痛,および嚥下困難が突然発生し,多くの場合,視診できる中咽頭の炎症は伴わない。発症から数時間以内に致死的な窒息が生じることがある。流涎が非常によくみられる。さらに,患児には重症感(アイコンタクトが乏しいか全くない,チアノーゼ,易怒性,なだめたり気をまぎらわせたりすることができない)があり,発熱がみられ,不安そうにする。呼吸困難,頻呼吸,および吸気性喘鳴が現れることがあり,そのためしばしば患児は換気を高めるために,座位になり,前傾し,開口状態で下顎を前突させ,頸部を過伸展した前のめりの姿勢(tripod position)となる。この姿勢を中止すると,呼吸不全を招くことがある。胸骨上,鎖骨上,および肋骨下に吸気時の陥没がみられることがある。

成人の症状は,小児のものと同様で,咽頭痛,発熱,嚥下困難,および流涎などであるが,症状がピークに達するまでの時間は通常24時間を超える。成人では気道の直径が大きいため,閉塞は頻度がより低く,より劇症的でない。しばしば,視診できる中咽頭の炎症がない。しかしながら,重度の咽頭痛があり,咽頭の外観が正常である場合,喉頭蓋炎が疑われる。診断および治療が遅れると,気道閉塞および死亡のリスクが高まる。

喉頭蓋炎の診断

  • 直接視診(通常は手術室で)

  • 疑いが低い,より軽症な例ではX線

喉頭蓋炎は,重度の咽頭痛があり,咽頭炎がみられない患者,ならびに咽頭痛および吸気性喘鳴を有する患者で疑われる。小児における吸気性喘鳴は,クループ(ウイルス性の喉頭気管気管支炎―喉頭蓋炎とクループの鑑別の表を参照),細菌性気管炎,および気道異物によっても生じることがある。前のめりの姿勢(tripod position)は,扁桃周囲膿瘍または咽後膿瘍でも生じることがある。

表&コラム
表&コラム

喉頭蓋炎が疑われる場合,患者を入院させる。診断は直接診察を必要とし,通常,軟性ファイバースコープを用いた喉頭鏡検査を用いて行う。(注意:咽頭および喉頭の診察は,小児においては気道の完全閉塞を突然引き起こす可能性があり,最先端の気道介入が実施できる手術室以外では直接診察すべきではない。)単純X線は役に立つ場合があるが,精度はそれほど高くなく(1),吸気性喘鳴のある患児をX線装置まで移動すべきではない。直達喉頭鏡検査で強い発赤を呈し,硬化した喉頭蓋に浮腫を認めれば診断に至る。その後,起因菌を検索するため,声門上部の組織および血液の培養を行うことがある。

一部の成人症例では,軟性ファイバースコープによる喉頭鏡検査を安全に施行できる。

喉頭蓋炎および声門下クループ(Subglottic Croup)
喉頭蓋炎
喉頭蓋炎

挿管された患者でみられる喉頭蓋炎。写真上部にみられる,硬く,浮腫が認められる喉頭蓋に注意すること。喉頭蓋の下および遠位に声帯が見える。

Image provided by Clarence T. Sasaki, MD.

喉頭蓋炎(成人)
喉頭蓋炎(成人)

このX線写真には,喉頭蓋炎に特徴的な腫大した喉頭蓋(thumb sign―矢印)と下咽頭の腫脹が認められる。後方に偏位している肥厚した喉頭蓋に注意すること。

Image provided by Clarence T. Sasaki, MD.

声門下クループ(Subglottic Croup)
声門下クループ(Subglottic Croup)

この前後X線像は,クループにより引き起こされる特徴的な気道の声門下の狭小化(steeple sign;矢印)を示している。

Image provided by Clarence T. Sasaki, MD.

パール&ピットフォール

  • 吸気性喘鳴のある喉頭蓋炎の小児患者では,咽頭または喉頭の診察で完全な気道閉塞を誘発するおそれがある。

診断に関する参考文献

  1. 1.MayoSmith MF, Hirsch PJ, Wodzinski SF, et al: Acute epiglottitis in adults.An eight-year experience in the state of Rhode Island. N Engl J Med314(18):1133-9, 1986.doi: 10.1056/NEJM198605013141801.PMID: 3515191.

喉頭蓋炎の治療

  • 気道

  • 抗菌薬(例,セフトリアキソン)

吸気性喘鳴がある患児では,動揺を与えうる(したがって気道閉塞を誘発しうる)介入は,気道確保するまで避けるべきである。喉頭蓋炎がある小児では,直ちに気道を確保しなければならない。気道確保が非常に困難な場合があり,可能であれば経験豊富なスタッフが手術室で行うべきである。通常,気管内チューブは安定した状態を24~48時間維持するまで必要である(通常の合計挿管時間は小児と成人どちらの場合も60時間未満である)。あるいは,気管切開を施行する。気道確保前に呼吸停止が生じた場合,バッグ-マスク換気が救命的な一時的手段となることがある。喉頭蓋炎の患児の救急治療のため,各医療機関では,救命医療,耳鼻咽喉科学,麻酔科,および小児科を含めたプロトコルを用意しておくべきである。

気道が重度に閉塞している成人では,軟性ファイバースコープによる喉頭鏡検査中に気管挿管を施行してもよい。他の成人では,直ちに挿管する必要がないこともあるが,集中治療室で挿管セットと輪状甲状靱帯切開用のトレイをベッドサイドに準備して,気道障害がないか観察すべきである。

β-ラクタマーゼ抵抗性抗菌薬(セフトリアキソン50~75mg/kg,静注にて1日1回[最大量2g]など)を,培養および感受性試験の結果が出るまでの間,経験的に使用すべきである。

インフルエンザ菌(H. influenzae)b型により引き起こされる喉頭蓋炎は,インフルエンザ菌(H. influenzae)b型(HiB)結合型ワクチンにより効果的に予防しうる。

要点

  • 最も一般的な原因であるインフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)b型に対するワクチン接種が広く行われているため,喉頭蓋炎の発生率は,特に小児において著しく低下している。

  • 吸気性喘鳴のほか,咽頭が正常に見える状態での咽頭痛が重要な手がかりとなる。

  • 吸気性喘鳴のある喉頭蓋炎の小児患者では,咽頭または喉頭の診察で完全な気道閉塞を誘発するおそれがある。

  • 本疾患が疑われる場合,手術室で軟性ファイバースコープによる喉頭鏡検査を施行する;画像検査は疑いが非常に低い患者に対してのみ実施する。

  • 通常,小児では気管挿管により気道を確保すべきである;成人では,しばしば気道障害の徴候がないか観察できる。

  • セフトリアキソンなど,β-ラクタマーゼ抵抗性抗菌薬を投与する。

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